メーシャはバイザーをつけていい感じの椅子に座り、冒険者適性審査を開始した。バイザーを付けると身体が一時的に休眠状態に入り、無意識下で自由に思考したり動いたりできる記憶に残らない特殊な明晰夢を見せ、そこでの言動やパターンを高速で集計する。
これにより、不正をしたり対策を取られたりすることがなく、冒険者の本来の性質を見抜くことができるのだ。ちなみに、この結果は個人情報なので本人以外に教えることはできない。
この審査は戦闘スタイルの得手不得手だけでなく、冒険者のサバイバル適性、クエストの受注パターンなど色々なことがわかる。なので、己の才能が分からず苦手な分野に進んでしまい、力が思うようにふるえずに芽が出なかったり大怪我をしてしまったりということが大幅に減った。
この審査が存在しなかった時期と導入してからでは、一年あたりの死傷者数が数十分の一未満まで減ったと言う。
世界のトップ技術者が集まると言われる"白雷"の街で開発された最高峰の技術のひとつである。
* * * * *
「──はい、終了しましたのでバイザーを外して大丈夫ですよ」
受け付けをしてくれたお姉さんの声がメーシャの目を覚ました。
「……ふぁあ。あれ、もう終わったの?」
リクライニングチェアでホットアイマスクをつけてリラックスしていると、時間が一瞬で溶けてしまった……なんて経験はないだろうか。
メーシャは目を瞑ってから体感1分ほどしか経っていなかった。
「……なんだか、もう少しゆっくりしたい気分です」
部屋の中に流れる音楽がゆったりと心地いいので、もうひと眠りしたい気持ちを刺激する。
「どれくらい時間経ったんだろ……」
メーシャはポケットのスマホを取り出して、ギルドに入ったくらいの時間から逆算しつつどれだけ眠っていたかを割り出そうとした。
「あれ、時間ぜんぜん進んでなくね?」
どう考えても、というか考えなくてもギルドに入ってからほんの10分ほどしか経っていない。契約書を読んでいた時間も含めてだ。つまり、バイザーをつけて眠っていたのは……。
「50秒ほどですね」
「はやいですね!」
審査の時間の短さにヒデヨシも驚いて跳ね上がってしまう。
「魔法機械の計算能力が高く、最低限の情報を手に入れさえすればあとは勝手に集計できますからね」
『ぉおお〜……! どういう魔法陣使ってんだ? ……睡眠系の魔法の応用で、幻惑系を使わなくてもいいのか。光魔法を乱反射させることで連続照射して…………マジか。色んな魔法を組み合わせて、相互作用させることでプログラム量を減らしてんのかぁ〜。俺様ならこのマキナ作れるか? いや、作れたとしてもどっかで閃きのキッカケがないと無理かもしれねえ。こんなクレイジーな魔法陣はそうとうもの好きじゃねえと思いつきもしないだろうな。はあ……開発者と語り合いてぇぜ』
急に声がして目を見開くお姉さんのこともお構いなしに、デウスは恋した乙女の如くバイザーの技術について呟いてしまうのだった。
* * * * *
メーシャが審査を受けているころ、部屋の外でそわそわする3人組がいた。
「そろそろだぞ……。準備は良いかマーク、フロッグ」
鍵開けシーフのベイブ、ドリンクメイジのマーク、そして孤高のライバルであるポンペインファイターのフロッグ。
目的はもちろん新人教育でストレス発散……もとい世のための慈善事業だ。
「オレは準備万端だ。新人が部屋から出て、受け付けから解放された瞬間が、ヤツが地獄に落ちる瞬間だぜ……ケヒヒヒヒヒ」
マークはケヒヒと笑う時に愛用のナイフを舐める。……そして、しっかり拭き取ってから戻す。そのままにするのはサビの原因だからな。
「オイラは…………ダメ……かも……はぐぅ!? お腹が! …………ごめんベイブ、オイラはちょっとトイレに……!」
「は、早くいけフロッグ! オレは別に床掃除なんて好きじゃねんだ! 新人教育よりテメーは自分のお腹をいたわってやれ!」
……チッ。思わず叫んじまった。
ポンペインファイターのフロッグの職業は実はファイターじゃねえ。本当はオレと同じシーフなんだ。
じゃあ、なんでそんな二つ名を持ってるかって? それはな、ポンポンペイン……つまり腹痛といつも戦っているからだ。
ヤツが言うには緊張するとダメなんだとよ。
「……軟弱者めが。しかたねえな、こうなったらこのドリンクメイジのマークがフロッグの分まで新人をぶちのめして……教育してやるかぁあ?」
こいつはハリキリ過ぎだ。
せっかく抜け出してきてんのに、あんまりうるさくするとバレて……。
「──マーク! そこにいたのか! 仕事サボってなにしてんだ! ったく、12番席にさっさとドリンクを持っていきやがれってんだ!」
「ふぇっ!? りょ、料理長!? なんでオレの居場所が分かったんだ……? くそっ、すまねえ。オレは一緒にいけねえみたいだ。……オレの分までがんばってくれよ」
……マークも行っちまいやがった。
そうだ、ドリンクメイジのドリンクってのは、シタデルの食堂のドリンク係ってことだ。メイジの方はまあ、ちゃんと魔法使いで間違いない。
そうなってくると、オレの"鍵開けシーフ"ってのも気になってくるよな? そうだと思ったぜ。
そうだよ、ご想像通りウラがある。
オレはシタデルの鍵を持った戸締まり係だ。シタデルの鍵を開けるから鍵開けシーフだ。
──ウィン……。
扉が開いた。とうとう新人が部屋から出てきたぜ。
「──じゃあ、まずは研修みたいなのしてから本格的にってカンジか」
「結果が出るまで少し待ってましょうか。カーミラさんから少しお金貰ってますし、何か食べますか?」
そう、結果はだいたい5分で出る。だから、それまでにオレが研修するぞって声をかけておけば、何も知らねえ新人はそのまま引き受ける。
本当は受け付けに聞いて手の空いてる相性の良い先輩が呼ばれるんだが、すでに決まっている場合はその限りじゃない。やるなら……この5分が勝負だ。
「やあやあキミたち! 新人さんかな〜? もしかして、研修とかってまだなんじゃない? それに、誰に頼んだら良いか困ってるとおもって……さっ! 良かったら星2冒険者の鍵開けシーフのベイブにお手伝いさせて欲しいな〜なんて」
決まった!
この柔らかな口調と、親しみやすい雰囲気、なんといってもチャーミングな笑顔! 前回は笑顔がぎこちなかったからか成功は逃したが、今回は会心の笑顔だぜ、こんにゃろー。
「ん? ああ、先輩冒険者さんか。ごめんね、新人研修してくれる人はもう決まってるみたい」
な、なぁにぃ〜!? 新人研修が初めから決まってるパターンって、ワルターさん以来じゃねえのか? ああ、ワルターさんとこの……なんだっけ、アメリー? とかいう人もそうだったが、何にしてもイレギュラーだ。
もしかしたら、この嬢ちゃんと坊ちゃんは手を引いた方が良さそうか?
「……どうしたベイブ? メーシャさんとヒデヨシさんに何かようか?」
……この深みのある勇ましい声は……!
「ぎ、ギルドマスタ〜!? い、いえ、もお困りだったら何か手伝おうかな〜って思って……」
やばい! 声が震えちまう。
知らないヤツもいるだろうから説明すると、この方はアレッサンドリーテ支部のギルドマスターで星6冒険者のデイビッドさんだ。
本当は昇級できるが、あまり星を増やすと本部に転勤しちまうとかで6止めしてるらしい。
しっかし、ヤベーのはそこだけじゃない。
身長が2m20cm超えのトラ型の獣人で、筋肉だけでも山みたいでヤベーのに、並の冒険者だと着たら体が潰れちまうほど重たい鎧を常に着てるし、しかも戦いの時には身長と同じくらいの大きさの幅が広いバスターソードを使いこなすそうだ。
この前間違ったフリしてタックルをしかけてみたら、なぜかオレの方が5m吹き飛んだんだ。正直、迫力が凄すぎてオレは関わりたくない。
「気遣いありがとう、ご苦労だったな。だが、今回の新人研修は1回目を俺、2回目をワルターが担うことになっているんだ。俺もあまり暇ではなかったんだが、アレッサンドリーテ近衛騎士団の団長から直々にお願いされてな。なんでも、陛下や王女殿下の次に大切な人物だとか。だからまあ、失礼のないようにな」
ぅおっと、気を失いそうになっちまった。情報過多だ。
ただ、デイビッドさんのおかげで命拾いしとようだ。もしあのまま教育……新人イジメをしてたら、オレの首が危なかったってことか。
つーか、あのニンゲンのお嬢ちゃんとゲッシのお坊ちゃんヤバすぎるだろ。ギルドマスターとワルターさんに騎士団長? 手に負えるわけがない。それに、ちょっとだけ漂ってきたオーラに触れただけで、素人のオレですらタダモノじゃないと確信しちまうヤバさだ。怒らせたら消し飛んじまう。
「いや〜、そうでしたか! ではオレでは力不足ですし、ギルドマスターやワルターさんがいるならここいらで、おいとまさせて頂こうかな? ははは……。では、ええっと……メーシャさんとヒデヨシさんでしたか? 良い冒険者ライフを送ってくださいな!」
今日のオレの足は生まれて1番俊敏だった。
あんなところ、あと1秒でも長居しちまったら身体がもたないって。フロッグじゃないけど、トイレに行きたくなってきたしな。
「…………はあ、真っ当に生きようかな」
まあ、教育つっても1度も成功したことないんだけどな。
● ● ●
「…………ベイブのやつ様子が変だったが、トイレか? まあいい、おふたかた……結果が出るまでお暇でしょうし、研修の説明がてらご飯でもどうですか? もちろん、俺がおごるので好きなものを好きなだけ食べてください」
「やったー!」
「お嬢様、何食べましょうか!」
こうして、メーシャの知らないところでギルドの平和? が取り戻されたのだった。
これにより、不正をしたり対策を取られたりすることがなく、冒険者の本来の性質を見抜くことができるのだ。ちなみに、この結果は個人情報なので本人以外に教えることはできない。
この審査は戦闘スタイルの得手不得手だけでなく、冒険者のサバイバル適性、クエストの受注パターンなど色々なことがわかる。なので、己の才能が分からず苦手な分野に進んでしまい、力が思うようにふるえずに芽が出なかったり大怪我をしてしまったりということが大幅に減った。
この審査が存在しなかった時期と導入してからでは、一年あたりの死傷者数が数十分の一未満まで減ったと言う。
世界のトップ技術者が集まると言われる"白雷"の街で開発された最高峰の技術のひとつである。
* * * * *
「──はい、終了しましたのでバイザーを外して大丈夫ですよ」
受け付けをしてくれたお姉さんの声がメーシャの目を覚ました。
「……ふぁあ。あれ、もう終わったの?」
リクライニングチェアでホットアイマスクをつけてリラックスしていると、時間が一瞬で溶けてしまった……なんて経験はないだろうか。
メーシャは目を瞑ってから体感1分ほどしか経っていなかった。
「……なんだか、もう少しゆっくりしたい気分です」
部屋の中に流れる音楽がゆったりと心地いいので、もうひと眠りしたい気持ちを刺激する。
「どれくらい時間経ったんだろ……」
メーシャはポケットのスマホを取り出して、ギルドに入ったくらいの時間から逆算しつつどれだけ眠っていたかを割り出そうとした。
「あれ、時間ぜんぜん進んでなくね?」
どう考えても、というか考えなくてもギルドに入ってからほんの10分ほどしか経っていない。契約書を読んでいた時間も含めてだ。つまり、バイザーをつけて眠っていたのは……。
「50秒ほどですね」
「はやいですね!」
審査の時間の短さにヒデヨシも驚いて跳ね上がってしまう。
「魔法機械の計算能力が高く、最低限の情報を手に入れさえすればあとは勝手に集計できますからね」
『ぉおお〜……! どういう魔法陣使ってんだ? ……睡眠系の魔法の応用で、幻惑系を使わなくてもいいのか。光魔法を乱反射させることで連続照射して…………マジか。色んな魔法を組み合わせて、相互作用させることでプログラム量を減らしてんのかぁ〜。俺様ならこのマキナ作れるか? いや、作れたとしてもどっかで閃きのキッカケがないと無理かもしれねえ。こんなクレイジーな魔法陣はそうとうもの好きじゃねえと思いつきもしないだろうな。はあ……開発者と語り合いてぇぜ』
急に声がして目を見開くお姉さんのこともお構いなしに、デウスは恋した乙女の如くバイザーの技術について呟いてしまうのだった。
* * * * *
メーシャが審査を受けているころ、部屋の外でそわそわする3人組がいた。
「そろそろだぞ……。準備は良いかマーク、フロッグ」
鍵開けシーフのベイブ、ドリンクメイジのマーク、そして孤高のライバルであるポンペインファイターのフロッグ。
目的はもちろん新人教育でストレス発散……もとい世のための慈善事業だ。
「オレは準備万端だ。新人が部屋から出て、受け付けから解放された瞬間が、ヤツが地獄に落ちる瞬間だぜ……ケヒヒヒヒヒ」
マークはケヒヒと笑う時に愛用のナイフを舐める。……そして、しっかり拭き取ってから戻す。そのままにするのはサビの原因だからな。
「オイラは…………ダメ……かも……はぐぅ!? お腹が! …………ごめんベイブ、オイラはちょっとトイレに……!」
「は、早くいけフロッグ! オレは別に床掃除なんて好きじゃねんだ! 新人教育よりテメーは自分のお腹をいたわってやれ!」
……チッ。思わず叫んじまった。
ポンペインファイターのフロッグの職業は実はファイターじゃねえ。本当はオレと同じシーフなんだ。
じゃあ、なんでそんな二つ名を持ってるかって? それはな、ポンポンペイン……つまり腹痛といつも戦っているからだ。
ヤツが言うには緊張するとダメなんだとよ。
「……軟弱者めが。しかたねえな、こうなったらこのドリンクメイジのマークがフロッグの分まで新人をぶちのめして……教育してやるかぁあ?」
こいつはハリキリ過ぎだ。
せっかく抜け出してきてんのに、あんまりうるさくするとバレて……。
「──マーク! そこにいたのか! 仕事サボってなにしてんだ! ったく、12番席にさっさとドリンクを持っていきやがれってんだ!」
「ふぇっ!? りょ、料理長!? なんでオレの居場所が分かったんだ……? くそっ、すまねえ。オレは一緒にいけねえみたいだ。……オレの分までがんばってくれよ」
……マークも行っちまいやがった。
そうだ、ドリンクメイジのドリンクってのは、シタデルの食堂のドリンク係ってことだ。メイジの方はまあ、ちゃんと魔法使いで間違いない。
そうなってくると、オレの"鍵開けシーフ"ってのも気になってくるよな? そうだと思ったぜ。
そうだよ、ご想像通りウラがある。
オレはシタデルの鍵を持った戸締まり係だ。シタデルの鍵を開けるから鍵開けシーフだ。
──ウィン……。
扉が開いた。とうとう新人が部屋から出てきたぜ。
「──じゃあ、まずは研修みたいなのしてから本格的にってカンジか」
「結果が出るまで少し待ってましょうか。カーミラさんから少しお金貰ってますし、何か食べますか?」
そう、結果はだいたい5分で出る。だから、それまでにオレが研修するぞって声をかけておけば、何も知らねえ新人はそのまま引き受ける。
本当は受け付けに聞いて手の空いてる相性の良い先輩が呼ばれるんだが、すでに決まっている場合はその限りじゃない。やるなら……この5分が勝負だ。
「やあやあキミたち! 新人さんかな〜? もしかして、研修とかってまだなんじゃない? それに、誰に頼んだら良いか困ってるとおもって……さっ! 良かったら星2冒険者の鍵開けシーフのベイブにお手伝いさせて欲しいな〜なんて」
決まった!
この柔らかな口調と、親しみやすい雰囲気、なんといってもチャーミングな笑顔! 前回は笑顔がぎこちなかったからか成功は逃したが、今回は会心の笑顔だぜ、こんにゃろー。
「ん? ああ、先輩冒険者さんか。ごめんね、新人研修してくれる人はもう決まってるみたい」
な、なぁにぃ〜!? 新人研修が初めから決まってるパターンって、ワルターさん以来じゃねえのか? ああ、ワルターさんとこの……なんだっけ、アメリー? とかいう人もそうだったが、何にしてもイレギュラーだ。
もしかしたら、この嬢ちゃんと坊ちゃんは手を引いた方が良さそうか?
「……どうしたベイブ? メーシャさんとヒデヨシさんに何かようか?」
……この深みのある勇ましい声は……!
「ぎ、ギルドマスタ〜!? い、いえ、もお困りだったら何か手伝おうかな〜って思って……」
やばい! 声が震えちまう。
知らないヤツもいるだろうから説明すると、この方はアレッサンドリーテ支部のギルドマスターで星6冒険者のデイビッドさんだ。
本当は昇級できるが、あまり星を増やすと本部に転勤しちまうとかで6止めしてるらしい。
しっかし、ヤベーのはそこだけじゃない。
身長が2m20cm超えのトラ型の獣人で、筋肉だけでも山みたいでヤベーのに、並の冒険者だと着たら体が潰れちまうほど重たい鎧を常に着てるし、しかも戦いの時には身長と同じくらいの大きさの幅が広いバスターソードを使いこなすそうだ。
この前間違ったフリしてタックルをしかけてみたら、なぜかオレの方が5m吹き飛んだんだ。正直、迫力が凄すぎてオレは関わりたくない。
「気遣いありがとう、ご苦労だったな。だが、今回の新人研修は1回目を俺、2回目をワルターが担うことになっているんだ。俺もあまり暇ではなかったんだが、アレッサンドリーテ近衛騎士団の団長から直々にお願いされてな。なんでも、陛下や王女殿下の次に大切な人物だとか。だからまあ、失礼のないようにな」
ぅおっと、気を失いそうになっちまった。情報過多だ。
ただ、デイビッドさんのおかげで命拾いしとようだ。もしあのまま教育……新人イジメをしてたら、オレの首が危なかったってことか。
つーか、あのニンゲンのお嬢ちゃんとゲッシのお坊ちゃんヤバすぎるだろ。ギルドマスターとワルターさんに騎士団長? 手に負えるわけがない。それに、ちょっとだけ漂ってきたオーラに触れただけで、素人のオレですらタダモノじゃないと確信しちまうヤバさだ。怒らせたら消し飛んじまう。
「いや〜、そうでしたか! ではオレでは力不足ですし、ギルドマスターやワルターさんがいるならここいらで、おいとまさせて頂こうかな? ははは……。では、ええっと……メーシャさんとヒデヨシさんでしたか? 良い冒険者ライフを送ってくださいな!」
今日のオレの足は生まれて1番俊敏だった。
あんなところ、あと1秒でも長居しちまったら身体がもたないって。フロッグじゃないけど、トイレに行きたくなってきたしな。
「…………はあ、真っ当に生きようかな」
まあ、教育つっても1度も成功したことないんだけどな。
● ● ●
「…………ベイブのやつ様子が変だったが、トイレか? まあいい、おふたかた……結果が出るまでお暇でしょうし、研修の説明がてらご飯でもどうですか? もちろん、俺がおごるので好きなものを好きなだけ食べてください」
「やったー!」
「お嬢様、何食べましょうか!」
こうして、メーシャの知らないところでギルドの平和? が取り戻されたのだった。