「──ドラゴンのステーキ!!!?」
宿屋1階の食堂にて、外の道路まで聞こえてしまうほどの叫び声を出したのはメーシャだった。
「ドラゴン自体を狩るのは難しく家畜化もできないので、ドラゴンの細胞を使った培養肉ですけどね。喜んでいただけて良かったです」
メーシャたちはラードロがいるという洞窟にいく前に、宿屋で朝食をとることになったのだが、さすが異世界と言うべきか。
メニューにはメーシャが言ったように"ドラゴンのステーキ"や"プルマルのミントゼリー"などのモンスター由来の材料が使われている料理や、"トビオオツノシカのツノ焼き"や"爆弾イチゴと竜巻きキャベツのサラダ"みたいな聞いたことがない動物や野菜を使っているもの。
そして"泣かないオレンジマンドラゴラのグラッセ"、"黒トゲトゲのビネガーライス"、"曲りツノ牛のチーズ"などの、名前が違うものの地球でも見かける食材を使った料理も存在したのはちょっとした安心感のようなものがあった。ちなみに、それぞれ人参のグラッセ、ウニの海鮮丼、水牛のモッツァレラチーズだ。
『ドラゴン=ラードロを倒そうって時にドラゴンステーキを選ぶとはな! メーシャの故郷でいうところの験担ぎってやつだな? ドラゴン=ラードロを喰ってやるつもりで豪快にいこうぜ!』
● ● ●
「はい、おまたせ! ごゆっくりどうぞ」
店員のマッチョなおじさんが料理を運んでくれた。これで注文した料理は全部揃ったはずだ。
「ぅうおおおおおお!! ステーキきたー!!」
メーシャはもちろんドラゴンステーキ。直径20cm厚さ15cmのボリューミーなミディアムレアのステーキだ。肉汁と果実酒でできたソースがかかっている。
「ちうっちゅいぃ〜!」
ヒデヨシはマシンガンヒマワリの種のペースト。この種は"ゲッシ"(齧歯類型モンスター)の大好物なんだとメニューに書いていた。
「私はバルーンパーチという魚のアクアパッツァです」
この魚は脂の乗ったフグのような弾力のある白身だが、毒がない代わりに少しタンパクな味である。なので、スパイスや旨味のある野菜と一緒に煮込むことで、手軽に極上のフグ肉と同等の美味しい料理にすることができる。
『くぅ〜! 美味そうにもほどがある! 俺様に身体があれば! 半年…………いや、冬眠の前だから最後にメシを食ったのは1000年くらいまえか? 腹は減らねーがこういう時ちょっと残念だな……』
デウスはご飯が食べられなくてしょんぼり。
「………………そっか。ま、身体ないんじゃしゃーない。宝珠を取り戻したら食べな」
メーシャは淡々と言いながらも、ステーキを半分切り分けてソースごとアイテムボックスに送った。アイテムボックスに送ればホカホカで美味しい状態を保存できるので、デウスが宝珠を取り返して身体が戻った後に食べることができる。
『め、メーシャ〜……。ありがとぅ〜。あとこっちの世界に来た時理由も言わずに居なくなってごべんね〜……』
メーシャの行動に感極まったデウスは涙を(身体はないが精神的に)流しながら、感謝と謝罪の言葉を口にした。
「いいよー」
「ちうっちゅぁー!!?」
そうこうしている間にヒデヨシがひまわりの種のペーストを口にして感動していた。
「ちゅるっちいちうちぃつーちゅいっちいち!」
……このヒマワリの種のペーストはただ砕いてペースト状にしているのではなく、丁寧に皮をむいて中の身を取り出し、バター状になるまで練り込んだ後きび砂糖と少しミルクを加えたシンプルながら極上の逸品である。
ちなみに、このマシンガンヒマワリの種は、花の段階ではほとんどただのヒマワリなのだが、この品種は普通のものの数倍の大きさの肉厚な種をつける。そして成熟するとその名の通りマシンガンのごとく種を前方に発射。
一応発射前にミシミシという音はするが、万が一当たれば生命の危機が危ないレベルで危険なので、近くで音が聞こえたら一般人も熟練の冒険者も匍匐前進する。
「お、ヒデヨシ様のお口に合ったみたいですね!」
カーミラはアクアパッツァを慣れた手つきで食べている。
「じゃあ、あーしも食べちゃおっかな! …………いっただっきまーす!」
メーシャはひと口サイズに切って口に運んだ。
「ん〜〜〜……!!!!」
まず切った時に薄々感じていたが、弾力がすごいのに硬くない。細胞自体がしっかりした組織でできているので、少し切ったところで肉汁がこぼれずキープしてくれる。
だが、噛んでいくと繊細ながらシャープな旨みが決壊したダムのようにあふれ出てくるのだ。
ドラゴン肉はシンプルに美味すぎる。
その美味さは数多のヒトを動かし、入手困難なドラゴン肉を1から培養肉の量産するまでになったほどだ。
「──消えちゃった……」
メーシャは旨みに溺れたかと思ったら、いつの間にか食べ終わっていた事実を突きつけられて虚しさを感じてしまう。
「そう言えばデウス様は龍神であられるはずですが、恐れながら……ドラゴンを食べることに抵抗などはないのでしょうか?」
カーミラが恐る恐るデウスに尋ねた。
『ヒトだって他の陸上生物を食べるだろ? 龍とドラゴンは別モンだ。それに培養肉だしな。心配してくれてありがとよ』
「いえ、すみません。こんな質問に答えて頂いてありがとうございます」
『へへっ。ここまで丁寧に接されるのも良いもんだな。……でも、もっと砕けた感じで良いぜ。これから旅の仲間になるんだしな』
恐縮しまくっているカーミラにデウスは優しく言った。
こんな感じなので忘れそうになるがこれでもデウスは龍神。自分を慕う者には慈悲深く、フレンドリーに接しても子どもを見守る親のような感覚になるのだ。つまり、むしろ嬉しい。
「そーだよカーミラちゃん。あーしのことも勇者様じゃなくて名前でいいよ」
「ちゆっちちうちう」
メーシャに続きヒマワリの種ペーストに舌鼓をうっていたヒデヨシも仲良くしたいようだ。
「分かりました……! すぐには難しいですが、私も……その、実は友達が欲しかったので……徐々に自由にしますね! えっと……メーシャちゃん、ヒデヨシくん。それと……デウスさん」
カーミラははみかみながらメーシャとヒデヨシを見たあと、どこにいるか分からないデウスに向かって伝えた。
「えへっ。新しい友達はいつでも嬉しいね」
そうしてメーシャたちは新たな仲間兼友達と絆を深めつつ、最高の異世界ご飯デビューを果たしたのだった。
宿屋1階の食堂にて、外の道路まで聞こえてしまうほどの叫び声を出したのはメーシャだった。
「ドラゴン自体を狩るのは難しく家畜化もできないので、ドラゴンの細胞を使った培養肉ですけどね。喜んでいただけて良かったです」
メーシャたちはラードロがいるという洞窟にいく前に、宿屋で朝食をとることになったのだが、さすが異世界と言うべきか。
メニューにはメーシャが言ったように"ドラゴンのステーキ"や"プルマルのミントゼリー"などのモンスター由来の材料が使われている料理や、"トビオオツノシカのツノ焼き"や"爆弾イチゴと竜巻きキャベツのサラダ"みたいな聞いたことがない動物や野菜を使っているもの。
そして"泣かないオレンジマンドラゴラのグラッセ"、"黒トゲトゲのビネガーライス"、"曲りツノ牛のチーズ"などの、名前が違うものの地球でも見かける食材を使った料理も存在したのはちょっとした安心感のようなものがあった。ちなみに、それぞれ人参のグラッセ、ウニの海鮮丼、水牛のモッツァレラチーズだ。
『ドラゴン=ラードロを倒そうって時にドラゴンステーキを選ぶとはな! メーシャの故郷でいうところの験担ぎってやつだな? ドラゴン=ラードロを喰ってやるつもりで豪快にいこうぜ!』
● ● ●
「はい、おまたせ! ごゆっくりどうぞ」
店員のマッチョなおじさんが料理を運んでくれた。これで注文した料理は全部揃ったはずだ。
「ぅうおおおおおお!! ステーキきたー!!」
メーシャはもちろんドラゴンステーキ。直径20cm厚さ15cmのボリューミーなミディアムレアのステーキだ。肉汁と果実酒でできたソースがかかっている。
「ちうっちゅいぃ〜!」
ヒデヨシはマシンガンヒマワリの種のペースト。この種は"ゲッシ"(齧歯類型モンスター)の大好物なんだとメニューに書いていた。
「私はバルーンパーチという魚のアクアパッツァです」
この魚は脂の乗ったフグのような弾力のある白身だが、毒がない代わりに少しタンパクな味である。なので、スパイスや旨味のある野菜と一緒に煮込むことで、手軽に極上のフグ肉と同等の美味しい料理にすることができる。
『くぅ〜! 美味そうにもほどがある! 俺様に身体があれば! 半年…………いや、冬眠の前だから最後にメシを食ったのは1000年くらいまえか? 腹は減らねーがこういう時ちょっと残念だな……』
デウスはご飯が食べられなくてしょんぼり。
「………………そっか。ま、身体ないんじゃしゃーない。宝珠を取り戻したら食べな」
メーシャは淡々と言いながらも、ステーキを半分切り分けてソースごとアイテムボックスに送った。アイテムボックスに送ればホカホカで美味しい状態を保存できるので、デウスが宝珠を取り返して身体が戻った後に食べることができる。
『め、メーシャ〜……。ありがとぅ〜。あとこっちの世界に来た時理由も言わずに居なくなってごべんね〜……』
メーシャの行動に感極まったデウスは涙を(身体はないが精神的に)流しながら、感謝と謝罪の言葉を口にした。
「いいよー」
「ちうっちゅぁー!!?」
そうこうしている間にヒデヨシがひまわりの種のペーストを口にして感動していた。
「ちゅるっちいちうちぃつーちゅいっちいち!」
……このヒマワリの種のペーストはただ砕いてペースト状にしているのではなく、丁寧に皮をむいて中の身を取り出し、バター状になるまで練り込んだ後きび砂糖と少しミルクを加えたシンプルながら極上の逸品である。
ちなみに、このマシンガンヒマワリの種は、花の段階ではほとんどただのヒマワリなのだが、この品種は普通のものの数倍の大きさの肉厚な種をつける。そして成熟するとその名の通りマシンガンのごとく種を前方に発射。
一応発射前にミシミシという音はするが、万が一当たれば生命の危機が危ないレベルで危険なので、近くで音が聞こえたら一般人も熟練の冒険者も匍匐前進する。
「お、ヒデヨシ様のお口に合ったみたいですね!」
カーミラはアクアパッツァを慣れた手つきで食べている。
「じゃあ、あーしも食べちゃおっかな! …………いっただっきまーす!」
メーシャはひと口サイズに切って口に運んだ。
「ん〜〜〜……!!!!」
まず切った時に薄々感じていたが、弾力がすごいのに硬くない。細胞自体がしっかりした組織でできているので、少し切ったところで肉汁がこぼれずキープしてくれる。
だが、噛んでいくと繊細ながらシャープな旨みが決壊したダムのようにあふれ出てくるのだ。
ドラゴン肉はシンプルに美味すぎる。
その美味さは数多のヒトを動かし、入手困難なドラゴン肉を1から培養肉の量産するまでになったほどだ。
「──消えちゃった……」
メーシャは旨みに溺れたかと思ったら、いつの間にか食べ終わっていた事実を突きつけられて虚しさを感じてしまう。
「そう言えばデウス様は龍神であられるはずですが、恐れながら……ドラゴンを食べることに抵抗などはないのでしょうか?」
カーミラが恐る恐るデウスに尋ねた。
『ヒトだって他の陸上生物を食べるだろ? 龍とドラゴンは別モンだ。それに培養肉だしな。心配してくれてありがとよ』
「いえ、すみません。こんな質問に答えて頂いてありがとうございます」
『へへっ。ここまで丁寧に接されるのも良いもんだな。……でも、もっと砕けた感じで良いぜ。これから旅の仲間になるんだしな』
恐縮しまくっているカーミラにデウスは優しく言った。
こんな感じなので忘れそうになるがこれでもデウスは龍神。自分を慕う者には慈悲深く、フレンドリーに接しても子どもを見守る親のような感覚になるのだ。つまり、むしろ嬉しい。
「そーだよカーミラちゃん。あーしのことも勇者様じゃなくて名前でいいよ」
「ちゆっちちうちう」
メーシャに続きヒマワリの種ペーストに舌鼓をうっていたヒデヨシも仲良くしたいようだ。
「分かりました……! すぐには難しいですが、私も……その、実は友達が欲しかったので……徐々に自由にしますね! えっと……メーシャちゃん、ヒデヨシくん。それと……デウスさん」
カーミラははみかみながらメーシャとヒデヨシを見たあと、どこにいるか分からないデウスに向かって伝えた。
「えへっ。新しい友達はいつでも嬉しいね」
そうしてメーシャたちは新たな仲間兼友達と絆を深めつつ、最高の異世界ご飯デビューを果たしたのだった。