── その日、異世界の神『ウロボロス』がふたつの宝珠をもがれ、地球と呼ばれる星へと堕ちた。
世界を我がモノにせんと企む"邪神ゴッパ"によって。
ウロボロスは決して弱くなどなかった。
だが邪神は準備していたのだ。龍神ウロボロスの襲撃に耐えうる強大なチカラを。体力を削り、策を成すための時間稼ぎができるほどの無数の兵士を。そして、その龍神のチカラを封じる秘策を。
故にウロボロスの敗北は、はじめから決まっていたのだった。強大な存在、龍神ウロボロスであるが故に……。
* * * * *
暗黒よりも禍々しい黒。謁見の間を満たすその邪悪なオーラを放つのは、赤と緑のふたつの宝珠を満足げに握りしめる邪神ゴッパである。
全身を黒いローブで身を包み、先の尖った肩の鎧、袖から伸ばす禍々しい手、前に突き出すねじれたツノ、表情の読めない鉄仮面に、それまでの邪悪さが嘘のような純白のタテガミ。
これだけでも相手を威圧するのに十分だが、それに加えて邪神は、月のごとき大きさを持っていた。
「──我が主よ、ご報告を!!」
焦りの見える声が、突如として静けさを断つ。
「何用だサブラーキャ」
影のごとき暗いローブに身を包み、フードから怪しい光を揺らめかせるドクロを覗かせた、いわゆる死神のような姿のその者は"サブラーキャ"。邪神の幹部である。
サブラーキャも禍々しさを放っているが、ヒトと変わらぬ大きさの体躯では月のごとき邪神と比べるのも気が引けよう。
「龍神が逃亡し、ガイアの地球という星に落ち延びたようです」
「地球……。魔法が廃れ、電気と科学で発展をとげた星か。あの世界にウロボロスの住んでいた魔法の世界と関わりを持つ者はいないはずだが」
"ガイア"とは地球が存在する宇宙全体の名称であり、"フィオール"とは、地球とは違って科学ではなく魔法で独自に発展した、地球の住民目線でいうところの異世界の名称である。
「では、なぜあの世界に? ただ生き延びるためでしょうか?」
「……それとも、別の理由があるのかもしれんな。我の知らぬ何かが」
握る宝珠がギリリと音を鳴らす。どうやら知らぬ間に力が入っていたようだ。
「我が主よ、ご命令を……!」
サブラーキャがうやうやしく頭をたれる。
「そうだな……」
邪神は何かを思い出し、鉄仮面の内側でニヤリと怪しい笑みを浮かべる。
「あの実験を進め、完成させ次第ウロボロスを追撃せよ」
「あの実験……。ああ、生物の身体を侵食し我らが手先にするという……。あれは半年ほどかかりますが」
「かまわん。武力のないあの世界にはそれでも劇薬のようなものだ。半年くらいでどうにもならぬわ。それに、実験が成功すれば先の戦いで消耗した兵を増やすこともできる」
「……ははぁ! では、仰せのままに」
サブラーキャはふたたび頭をたれると、足元から出現した魔法陣に吸われるように姿を消した。
「──とは言え、胸騒ぎがする。念の為に何か手を打っておくとしよう」
邪神は細めた目で宝珠を睨むのだった。
* * * * *
──ザァ……ザァ……。
夕日に照らされた黄金色の波が砂浜に寄っては離れ、寄っては離れていく。穏やかな波打ち際。
少し離れた位置にある学校からは叫び声のような笑い声のような声も聞こえるが、むしろそれが日常というこの空気感に拍車をかけている。
『──ぅぐ……』
声にならない声をあげる。
日常に堕ちた一点の非日常。チカラを失い、身体を保つことすら難しい程に消耗し、ヒト型に姿を変えたウロボロス。
『渡れた……のか? 地球に……。ぐぅっ!? か、身体が……!』
ウロボロスの手が一部灰へと変わり、風によって崩れてしまう。
『だが、そんな事にかまってるヒマはねえ……。早く邪神を倒す方法を考えねえと』
よろめく身体を無理やり起こし、使命と強い意志で立ち上がる。
『自分で戦うにしても、宝珠を奪られた以上現実的じゃない、か。なら、残された"チカラの才能"を誰かに託すしかねえ。ただそれにも魔力が必要だが、魔法の廃れた世界でどう探す? 何か、何か考えねえと……』
満身創痍の身体でウロボロスは、アテもなく、だが何かに呼ばれるように街の方へと歩みを進めていくのだった。
* * * * *
──ウロボロスが地に堕ちた頃、とある女子高生"いろは メーシャ"が番長へと昇った。
街を牛耳る不良学校のボスを倒し、大切な友人を救い出して。
メーシャは毛先に明るい青のメッシュが入った茶髪のロングヘア、ライトブラウンの瞳を持った高校1年生の女の子で、底なし沼も顔負けの体力を持っている。親が国際婚なこともあり、英語はそれなりに話せるとか。
余談だが、小さい頃のあだ名は"お手伝いメーシャちゃん"。
話はもどるが、不良高校の元番長は決して弱くなどなかった。
しかし、元番長が敵を吹き飛ばすほうきを振れば、そのほうきは床のほこりを絶対許さないマンになり、
突けば校舎を綺麗にするというチリトリは自分の生まれた意味を知ってしまったのだ。
つまり、元番長はあっというヒマもなく倒され、気づいた頃には何故か汚した校舎をお掃除するだけの、マジメ系ぽっちゃり女子高生になってしまっていたのだった。
いろはメーシャは強すぎたのだ。その回し蹴りは元番長の100kgを超える身体を楽々と浮かし、一撃のもとに倒してしまう威力。
しかも、ただの強い回し蹴りだから何回でもつかえるので、子分たちも同じようになす術なく倒されていったのだった。
そう、元番長の敗北は初めから決まっていたのだ。
「──これにこりたらもう、ケンカもイジメもしないこと! 分かった?」
メーシャが不良たちを正座させ、ぷんすか怒っていた。
「はい、ごめんなさい……」
メーシャを見る元番長や不良たちの目は、今までのことが嘘のように透き通っていた。が、怒られているので困り眉である。
「もうしません。校舎にラクガキもしません……」
元番長は落ち込んでシュン……としながらも、なんだか少しふしぎな気分だった。
メーシャは173cmで女性の中では少し高めの身長だが、元番長はそこから頭ひとつ分以上身長が高く、しかも体重も余裕で勝っている。確かに素早さという面では負けていたかもしれないが、それだけではあのジャッジメントサイスの威力の説明がつかないのだ。
まあ、考えても答えは出ないので考えるまではしなかったが。
「まあまあメーシャちゃん、わたしも怪我させられたわけじゃないし。ほら、ニッコリしよ?」
メーシャの友達"アミカ"がメーシャの顔を包むように両手を添える。
「……わかった」
メーシャがほっぺをもてあそばれながら深呼吸をする。
「っし! アミカも許してるみたいだし、お掃除もがんばってたもんね! あーしも手加減はしたとはいえ、みんなの事蹴っちゃったし怒りすぎはよくないか!」
「そうそう、良い調子だよメーシャちゃん! メーシャちゃんは笑顔が似合うからね」
「そ、そうかな? へへへ……」
アミカにおだてられてメーシャが笑顔になり、周囲の空気が少しずつ柔らかくなっていく。
元番長はともかく、どうやら他の不良生徒たちは怒ったメーシャの事を恐がっていたようだ。
──♪♫♩〜
メーシャのスカートのポケットから音楽が流れ出した。スマホのアラームだ。
「およ? ……あ、ヤバっ!」
「どうしたのメーシャちゃん?」
「えと、バイト! 海岸沿いのたこ焼き屋さんなんだけど、シフトが30分後くらいで! すぐ行かなきゃなんだけど……!」
メーシャはアミカと校門と不良生徒たちと順に目をやりながらソワソワ説明する。
「うーん……今から行ったら十分間に合いそうだね」
とは言え、この場を収めたり話をしたり、散らかされた教室の後片付けをしていたら絶対に間に合わない。
「良いよ! ここは私たちに任せてメーシャちゃんは行っといで」
アミカが元番長とアイコンタクトをする。
「……あ、はい! 元々うちらが原因でメーシャさんの時間をとらせちゃったんですし、アミカの姐さんも手伝ってくれるみたいですし、どうか気にせず行っちゃってください!」
不良とはいえ律儀な元番長。この短時間で敗北を受け入れ、メーシャを番長とし、その友人であるアミカも姐さんとして敬うことにしたようだ。
「良いの? アミカも、えっと……」
「山田です! もちろんです」
元番長が名乗る。
「行ってください番長!!」
「ここはアチシ達にまかせて!」
「ジャッジメントサイスくらいたこ焼きをグルッグルにしてください!」
他の不良生徒たちも山田元番長に触発されて、次々とメーシャに声援を送り出す。
「あんがとね! アミカも山田ちゃんも他の子たちも! じゃあ、あーしバイトに行ってくるし〜!」
そう言うと、メーシャは大きく手を振りながら学校を後にしたのだった。
* * * * *
この日のメーシャの活躍は不良生徒達によってすぐに街中に広がるのだが、この伝説を話ではなく目の当たりにした者がいた。
『いろは……メーシャ……か。まさかこの世界のヒトでもここまで……』
先刻この地にやって来たウロボロスである。ウロボロスはエネルギー消費を抑えるためか、今は物理的身体を持たず透明のエネルギー体になっていた。
『魔法こそ無いが、局所的にエネルギーが集まる土地とか祭壇? みてーなのもあるみたいだし……運が向いてきたのかもしれねえ……』
ウロボロスは一筋の光を見出し、刹那の喜びを噛みしめる。
『…………だが、今はまだチカラを継承するエネルギーすら残っちゃいねえ。まずは……』
ウロボロスがそこまで言った時、
「──誰!?」
近くを通りがかったメーシャがウロボロスのほうを見ていた。
だが、ウロボロスは身体が見える状態ではなく、しかも声も音も出していないはずである。しかし、メーシャは確実にこちらに目線を送っている。
「……あれ? 誰かいた気がしたんだけどなぁ」
メーシャが首を傾げる。
見えていた訳ではないようだ。
「……おっと、急がなきゃなんだった!! いっっそげー!」
考えるのもそこそこに、メーシャは慌ててその場を去っていった。
『……まさか、ただの人間が俺様の存在に気付くとはな。──ったく、おもしろくなってきたぜ』
ウロボロスは絶望がいつの間にか希望に置き換わっている事を悟り、メーシャにチカラを継承する事を決めたのだった。
世界を我がモノにせんと企む"邪神ゴッパ"によって。
ウロボロスは決して弱くなどなかった。
だが邪神は準備していたのだ。龍神ウロボロスの襲撃に耐えうる強大なチカラを。体力を削り、策を成すための時間稼ぎができるほどの無数の兵士を。そして、その龍神のチカラを封じる秘策を。
故にウロボロスの敗北は、はじめから決まっていたのだった。強大な存在、龍神ウロボロスであるが故に……。
* * * * *
暗黒よりも禍々しい黒。謁見の間を満たすその邪悪なオーラを放つのは、赤と緑のふたつの宝珠を満足げに握りしめる邪神ゴッパである。
全身を黒いローブで身を包み、先の尖った肩の鎧、袖から伸ばす禍々しい手、前に突き出すねじれたツノ、表情の読めない鉄仮面に、それまでの邪悪さが嘘のような純白のタテガミ。
これだけでも相手を威圧するのに十分だが、それに加えて邪神は、月のごとき大きさを持っていた。
「──我が主よ、ご報告を!!」
焦りの見える声が、突如として静けさを断つ。
「何用だサブラーキャ」
影のごとき暗いローブに身を包み、フードから怪しい光を揺らめかせるドクロを覗かせた、いわゆる死神のような姿のその者は"サブラーキャ"。邪神の幹部である。
サブラーキャも禍々しさを放っているが、ヒトと変わらぬ大きさの体躯では月のごとき邪神と比べるのも気が引けよう。
「龍神が逃亡し、ガイアの地球という星に落ち延びたようです」
「地球……。魔法が廃れ、電気と科学で発展をとげた星か。あの世界にウロボロスの住んでいた魔法の世界と関わりを持つ者はいないはずだが」
"ガイア"とは地球が存在する宇宙全体の名称であり、"フィオール"とは、地球とは違って科学ではなく魔法で独自に発展した、地球の住民目線でいうところの異世界の名称である。
「では、なぜあの世界に? ただ生き延びるためでしょうか?」
「……それとも、別の理由があるのかもしれんな。我の知らぬ何かが」
握る宝珠がギリリと音を鳴らす。どうやら知らぬ間に力が入っていたようだ。
「我が主よ、ご命令を……!」
サブラーキャがうやうやしく頭をたれる。
「そうだな……」
邪神は何かを思い出し、鉄仮面の内側でニヤリと怪しい笑みを浮かべる。
「あの実験を進め、完成させ次第ウロボロスを追撃せよ」
「あの実験……。ああ、生物の身体を侵食し我らが手先にするという……。あれは半年ほどかかりますが」
「かまわん。武力のないあの世界にはそれでも劇薬のようなものだ。半年くらいでどうにもならぬわ。それに、実験が成功すれば先の戦いで消耗した兵を増やすこともできる」
「……ははぁ! では、仰せのままに」
サブラーキャはふたたび頭をたれると、足元から出現した魔法陣に吸われるように姿を消した。
「──とは言え、胸騒ぎがする。念の為に何か手を打っておくとしよう」
邪神は細めた目で宝珠を睨むのだった。
* * * * *
──ザァ……ザァ……。
夕日に照らされた黄金色の波が砂浜に寄っては離れ、寄っては離れていく。穏やかな波打ち際。
少し離れた位置にある学校からは叫び声のような笑い声のような声も聞こえるが、むしろそれが日常というこの空気感に拍車をかけている。
『──ぅぐ……』
声にならない声をあげる。
日常に堕ちた一点の非日常。チカラを失い、身体を保つことすら難しい程に消耗し、ヒト型に姿を変えたウロボロス。
『渡れた……のか? 地球に……。ぐぅっ!? か、身体が……!』
ウロボロスの手が一部灰へと変わり、風によって崩れてしまう。
『だが、そんな事にかまってるヒマはねえ……。早く邪神を倒す方法を考えねえと』
よろめく身体を無理やり起こし、使命と強い意志で立ち上がる。
『自分で戦うにしても、宝珠を奪られた以上現実的じゃない、か。なら、残された"チカラの才能"を誰かに託すしかねえ。ただそれにも魔力が必要だが、魔法の廃れた世界でどう探す? 何か、何か考えねえと……』
満身創痍の身体でウロボロスは、アテもなく、だが何かに呼ばれるように街の方へと歩みを進めていくのだった。
* * * * *
──ウロボロスが地に堕ちた頃、とある女子高生"いろは メーシャ"が番長へと昇った。
街を牛耳る不良学校のボスを倒し、大切な友人を救い出して。
メーシャは毛先に明るい青のメッシュが入った茶髪のロングヘア、ライトブラウンの瞳を持った高校1年生の女の子で、底なし沼も顔負けの体力を持っている。親が国際婚なこともあり、英語はそれなりに話せるとか。
余談だが、小さい頃のあだ名は"お手伝いメーシャちゃん"。
話はもどるが、不良高校の元番長は決して弱くなどなかった。
しかし、元番長が敵を吹き飛ばすほうきを振れば、そのほうきは床のほこりを絶対許さないマンになり、
突けば校舎を綺麗にするというチリトリは自分の生まれた意味を知ってしまったのだ。
つまり、元番長はあっというヒマもなく倒され、気づいた頃には何故か汚した校舎をお掃除するだけの、マジメ系ぽっちゃり女子高生になってしまっていたのだった。
いろはメーシャは強すぎたのだ。その回し蹴りは元番長の100kgを超える身体を楽々と浮かし、一撃のもとに倒してしまう威力。
しかも、ただの強い回し蹴りだから何回でもつかえるので、子分たちも同じようになす術なく倒されていったのだった。
そう、元番長の敗北は初めから決まっていたのだ。
「──これにこりたらもう、ケンカもイジメもしないこと! 分かった?」
メーシャが不良たちを正座させ、ぷんすか怒っていた。
「はい、ごめんなさい……」
メーシャを見る元番長や不良たちの目は、今までのことが嘘のように透き通っていた。が、怒られているので困り眉である。
「もうしません。校舎にラクガキもしません……」
元番長は落ち込んでシュン……としながらも、なんだか少しふしぎな気分だった。
メーシャは173cmで女性の中では少し高めの身長だが、元番長はそこから頭ひとつ分以上身長が高く、しかも体重も余裕で勝っている。確かに素早さという面では負けていたかもしれないが、それだけではあのジャッジメントサイスの威力の説明がつかないのだ。
まあ、考えても答えは出ないので考えるまではしなかったが。
「まあまあメーシャちゃん、わたしも怪我させられたわけじゃないし。ほら、ニッコリしよ?」
メーシャの友達"アミカ"がメーシャの顔を包むように両手を添える。
「……わかった」
メーシャがほっぺをもてあそばれながら深呼吸をする。
「っし! アミカも許してるみたいだし、お掃除もがんばってたもんね! あーしも手加減はしたとはいえ、みんなの事蹴っちゃったし怒りすぎはよくないか!」
「そうそう、良い調子だよメーシャちゃん! メーシャちゃんは笑顔が似合うからね」
「そ、そうかな? へへへ……」
アミカにおだてられてメーシャが笑顔になり、周囲の空気が少しずつ柔らかくなっていく。
元番長はともかく、どうやら他の不良生徒たちは怒ったメーシャの事を恐がっていたようだ。
──♪♫♩〜
メーシャのスカートのポケットから音楽が流れ出した。スマホのアラームだ。
「およ? ……あ、ヤバっ!」
「どうしたのメーシャちゃん?」
「えと、バイト! 海岸沿いのたこ焼き屋さんなんだけど、シフトが30分後くらいで! すぐ行かなきゃなんだけど……!」
メーシャはアミカと校門と不良生徒たちと順に目をやりながらソワソワ説明する。
「うーん……今から行ったら十分間に合いそうだね」
とは言え、この場を収めたり話をしたり、散らかされた教室の後片付けをしていたら絶対に間に合わない。
「良いよ! ここは私たちに任せてメーシャちゃんは行っといで」
アミカが元番長とアイコンタクトをする。
「……あ、はい! 元々うちらが原因でメーシャさんの時間をとらせちゃったんですし、アミカの姐さんも手伝ってくれるみたいですし、どうか気にせず行っちゃってください!」
不良とはいえ律儀な元番長。この短時間で敗北を受け入れ、メーシャを番長とし、その友人であるアミカも姐さんとして敬うことにしたようだ。
「良いの? アミカも、えっと……」
「山田です! もちろんです」
元番長が名乗る。
「行ってください番長!!」
「ここはアチシ達にまかせて!」
「ジャッジメントサイスくらいたこ焼きをグルッグルにしてください!」
他の不良生徒たちも山田元番長に触発されて、次々とメーシャに声援を送り出す。
「あんがとね! アミカも山田ちゃんも他の子たちも! じゃあ、あーしバイトに行ってくるし〜!」
そう言うと、メーシャは大きく手を振りながら学校を後にしたのだった。
* * * * *
この日のメーシャの活躍は不良生徒達によってすぐに街中に広がるのだが、この伝説を話ではなく目の当たりにした者がいた。
『いろは……メーシャ……か。まさかこの世界のヒトでもここまで……』
先刻この地にやって来たウロボロスである。ウロボロスはエネルギー消費を抑えるためか、今は物理的身体を持たず透明のエネルギー体になっていた。
『魔法こそ無いが、局所的にエネルギーが集まる土地とか祭壇? みてーなのもあるみたいだし……運が向いてきたのかもしれねえ……』
ウロボロスは一筋の光を見出し、刹那の喜びを噛みしめる。
『…………だが、今はまだチカラを継承するエネルギーすら残っちゃいねえ。まずは……』
ウロボロスがそこまで言った時、
「──誰!?」
近くを通りがかったメーシャがウロボロスのほうを見ていた。
だが、ウロボロスは身体が見える状態ではなく、しかも声も音も出していないはずである。しかし、メーシャは確実にこちらに目線を送っている。
「……あれ? 誰かいた気がしたんだけどなぁ」
メーシャが首を傾げる。
見えていた訳ではないようだ。
「……おっと、急がなきゃなんだった!! いっっそげー!」
考えるのもそこそこに、メーシャは慌ててその場を去っていった。
『……まさか、ただの人間が俺様の存在に気付くとはな。──ったく、おもしろくなってきたぜ』
ウロボロスは絶望がいつの間にか希望に置き換わっている事を悟り、メーシャにチカラを継承する事を決めたのだった。