真っ白な空間……ここはどこだろう…

少しずつ意識が戻っていくのがわかる。落ち着いて周りを見渡すとそこには何もない真っ白い空間がずっと広がっていた。
そこから僕は歩き続けた。体力も減らずお腹も空かない、そんな中でずっと歩き続けた。もうどのくらい歩いたかなんてわからない。でもどれだけ歩いても景色が変わることなんてなかった。絶望していた。どれだけ歩いても変わらないそんな空間で……
そんな絶望した中でも僕はただ歩き続けていた。いつかこの空間から出られると信じて。
歩き続けて何日も経っただろうある時やっと遠くに誰か人がいるのを見つけた。その何かを見つけた僕は減らないたいりょくを存分に使って走った。そこには一人の少女が立っていた。その少女に近づいていくにつれ彼女の顔がはっきりと見えてきた。そこには会ったことのないすらっとした小柄な紫の花を持った少女が一人ポツンとどこか遠くを見つめていた。僕はやっとの思いでその少女を見つけたため少し場所は離れていたが腹からしっかり大きな声を出した。
僕が声をかけるとその少女はこちらに気付き歩み寄ってきてくれた。彼女がこちらに来るのにどのくらい時間がかかったのだろう。ずっと彼女は歩いていた気がする。彼女が僕のところまでもう少しというところで急に目の前が真っ暗になった。すると、そこには見覚えのある天井が見えていた。



ここはどこだ……何か長い夢を見ていたような気がする。何もない空間に一人で居てそして歩き続ける夢。歩き続けた後は何かを見つけたような気もしたし何もなかったような気もする。そして僕はこの夢を物心ついた時からよく見ている。この夢だけは忘れることができない。今まで見た夢で覚えているのはこの夢だけ。他の夢は起きた時には忘れている。
今日もそんなことを考えながら朝の支度をする。1年前にこの高校に入学して今は2年に上がった。僕は勉強が得意な方だったから学区の中でもそこそこ上の学校に通うことができている。偏差値がそこそこ高いから勉強の難易度がとても高いと思っていたがそんなことはなかったし周りもガリ勉ばっかりという様子でもなかった。勉強は多少できる程度で運動神経がズバ抜けていい奴や勉強も運動もできる奴なんてのもいるだから入学してすぐは友達ができるか分からなかった。
朝自分の教室に入り授業の準備をしていると後ろから僕は声をかけられた。
「一(にのまえ)君、ちょっと時間良い?聞きたいことがあるんだけど」
「良いよ」
一通り準備が終わっていたからそう一言だけ返し声をかけてきたクラスメイトの方を向いた。
「要件は何?」
「ここだと少し話しにくいから昼休みに靴箱の近くの玄関に来てもらっても良いかな?」
彼女はそう言って足早に去っていった。
僕は決して人付き合いが苦手というわけではない。ただ、昼休みを潰されるのは嫌だなと思い彼女が去った後めんどくさ……と愚痴をこぼしていた。
四限目の授業が終わり昼休みに入ると、僕は言われた通り学校の玄関に向かった。すでに玄関には彼女が到着しておりスマホをいじって待っていた。
「一(にのまえ)君。君って今日はどんな夢を見た?」
彼女は急にそんなバカでもわかるようなことを聞いてきた。一瞬なぞなぞか何かなのかと考えたけどよく分からなかったから普通に
「そんなこと覚えてるわけないだろ」
そう答えた。
「確かにそうだね。でも君は長い夢を見ていたはずだよ。」
「なんだよそれ」
そんなこと急に言われても意味がわからない。見た夢のことわかるわけがない。
「君がわかっていないならそのままでも良い」
そう言って彼女は足早にこの場を去っていった。彼女が去った後、僕もすぐに教室に戻り昼食をとった。次の授業が始まるためすぐに昼食を食べ終わらせ授業準備をした。それから2時間授業を受け帰りの準備をする。その間僕は昼休みの彼女の言葉について考えていた。でもいつまで経ってもあの質問の答えが出ることはなかった。
なんか前にもこんなことあったような……
ふと僕はそう感じた。けどそんなことはどうでも良かったからその考えはすぐに忘れてしまった。
それから僕は部活に入っていないから家に帰りゲームをする。いつものこの生活が固定化してきているような気がする。今の僕は中学で部活をやっている時とは違いとてもだらしない生活になっている。
疲れ切っていた僕夜夢を見ていた。
何もない空間でただひたすら歩き続ける夢。走らずただ歩くそしてそれ以外の行動は何もしない。というよりする気力が湧かない。
「いつまで歩いてるんだろうな」
わかりもしない、誰も答えてくれない。



ピーピーピー
「ん、朝か」
僕は毎日思う。学校に行くために早起きするのは憂鬱だ。
それにしてもあの夢はなんだろう。二、三日に一回はあの夢見るな。誰もいないし止まることもできない、というか止まったらダメな気がする。
こんな夢見たあとに歩いて学校なんてうんざりする。もしかして彼女はこの夢のことを言っていたのだろうか。

10分ほど歩いて学校に着いた。教室に入ったらいつも通りの人たちが揃っていた。そしてその中には昨日意味がわからないことを言ってきた女がそこにはいた。今日こそは絡まれまいと席についたその時、後ろの方から僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。咄嗟に振り返ってしまった僕は僕の名前をを呼んだそいつと目があってこっちに来いと言われてしまった。
「一(にのまえ)だっけ、ちょっと話がしたいんだけど放課後時間ある?」
2日連続で絡まれたと思ったらまさかの違う人だとは。ついにモテ期が来たのかと思ったけど二人目に至っては男だし、ゴツいし、頭悪いし、最悪だ。とりあえず今日が始まったばかりだし放課後までは絡まれることがないだろうからゆっくりと過ごすことができそうだ。
運がいいことに今日は時間割変更で4限の午前授業だった。早く終わったのにクラスメイトのゴツい男とカフェに行くなんて最悪すぎる。
指定されたカフェは学校から出て徒歩5分ほどの場所にあった。向かうとまだそいつは来てないようだったので、先に席に座ることにした。席に座って何も頼まないのはマナーが悪いと思いコーヒーをとりあえず頼むことにした。頼んだコーヒーをすすりながらふと早く来いと呟いていた。
コーヒーを半分くらい飲んだあたりでやっとあいつがきた。走って来たからか少し息を切らしていた。
「すまん。ちょっと部室の掃除が長引いてくるのが遅くなった。」
開口一番そんなことを、言ったので流石に許すことにしよう。
「それで話ってなんだ、僕は早く帰りたいんだけど。」
そう急かすとそいつは
「まぁ落ち着け話はすぐに終わらせるしそのコーヒーも奢るからさ。」
そうゆうことならと話は聞くことにした。
「お前、花浜と昨日何話してたんだ」
「大した話はしてないしあの人はよくわかんないことを言ってたよ」
昨日のことを思い出しながら話す。本当にあの人は何を言っているのかわからなかった。何をしてたとか、どんな夢を見てたかとか、覚えているわけでもないしそんなことどうだっていいだろう。それでもあの人、花浜さんはそんなことを聞いてきた。
「そうなのか、実は俺あいつと幼馴染で小さい頃から一緒の学校に通っているんだ。でも中学生の時不登校になって誰とも話さなくなってな、それでお前と話してるのを見て少し気になってな。」
そんなことをこのゴリラに言われても僕は何も知らないんだからほんとにどうでもいいと思った。とりあえず話を早く終わらせて家に帰りたいから
「そう」
と一言だけ返した。
「もう話は終わりでいいかな。早く帰って明日の予習をしないといけないんだ。」
ほんとは予習なんてしないがそう言って終わらせた。
「それはすまなかった。じゃあ会計はしておくから帰ってくれ。時間とって悪かったな。」
ほんとこのゴリラは礼儀だけは立派だ、見た目はゴツいし坊主だから野球部かなと思ったが実は柔道部らしい。そりゃあ礼儀がなっているわけだ。
そんなことを考えながら帰路を辿っていると見覚えのある人影が見えた。それはよく見るとさっき話のネタになっていた花浜一華だ。
「あっ、一くん。こんなところでどうしたの。君家の方向逆じゃなかったっけ。」
「確かに逆方向だ。ただよちょっと知り合いとすぐそこのカフェに寄っただけだよ」
なんで花浜さんが僕の家の方向を知っているかについてはわからなかったが言及はしなかった。それで話が続くとめんどくさいだろうと考えたからだ。
「じゃあもう行くね」
まさか先に花浜が言い出すとは思わなかったがちょうどいいと思い僕もすぐ帰ることにした。



ゴリラとのカフェから数日経ってまた花浜に呼び出された。呼ばれた場所はゴリラと一緒に行ったあのカフェだ。今回は彼女より僕の方が早く集合場所に着いたため席を取り自分の分のコーヒーを頼むことにして時間を潰した。僕が席について1分ほど経った頃、花浜はカフェに到着し僕を見つけて席に着いた。
「待たせてごめんね。信号にかなり引っかかって予定より遅くなったの」
「そんなに待ってない、僕もついさっき来たところだ。」
花浜といいゴリラといい遅刻して言い訳をするまでが早すぎる。そんなことはどうでもいい。今日もまた前と同じで要件は伝えられていない。早く要件だけ言ってくれればいいのに。
「今日の要件はなに?できれば早めに頼む。」
そう急かすと花浜は、
「実は今日相談があってね。その前に前聞いた夢のこと思い出した?思い出したなら教えて欲しいの。」
また夢のことを聞かれた。なんとなく予想はしていたがそれが本題じゃなさそうなのは少し意外だった。
「夢についての質問なんだけど、なんとなく思い出せたよ。僕がひたすら真っ白の空間を歩き続ける夢。ただそれだけで他はなにもしていない。そんな感じかな。」
「そうなんだね。誰か人が出てきたりものが出てきたりもしない?」
「そうだね。僕が覚えている範囲じゃ誰もなにも出てこないよ。」
なんでこの人はこんなにも夢について言及するんだろうか。
「相談についてなんだけどね。」
彼女は急に言い出したので僕は少し驚いた。
「相談って?」
「実は私中学生の頃いじめられていてね。一度自殺をしようとしたの。」
どうして僕にその話をするのだろうと疑問に思ったが彼女は続けた。
「私は自殺をしようとして家から離れたところにあるビルから飛び降りたの。そしたらもう死んだかなって思ってたら気づいた頃には目が覚めて病院にいたの。私は目が覚めるまで夢を見ていたんだ。私はなぜかその夢の内容が頭からこびりついて離れない。その夢の内容っていうのはね、真っ白な空間で一人で紫の花を持ってポツンと立っているだけなの。そんななにも記憶に残りそうもない夢なのにこびりついて離れない。その夢の中に一人だけ人にあったの。その人は遠くから私のことを呼んでいたの。私は気づいてすぐその人の方へ走って行った。でもなぜかその人に近づくことができなかった。最終的には近くに行ったところで世界が暗転して病院にいた。」
「君が中学生の頃学校に行っていなかったのは知っていたけどいじめられていたんだね。そうとは知らずに冷たい態度をとっていてほんとに申し訳ない。」
僕は彼女の言っていた「夢」を見たことがあるような気がした。ひたすら歩いた先に人を見つけたことがあったような気がする。でもそれが本当なのかがわからない。
「この話を君にしたのはね、夢の中で私に声をかけてきた人が君ととてもよく似ていてもしかしたらって思ったからなの。」
僕はひたすらにその夢と僕の夢を照らし合わせていた。
とりあえず今日は解散することになった。
僕は家に帰りつき疲れて寝てしまった。

夢を見ていたひたすら真っ白の空間を歩き続ける。いつもと同じ夢だ。でも今日は意識があるから少し都合がいい。僕は歩いて歩いて歩き続けた。その先には一人の少女が立っていた。そして声をかけた。
そこで僕の夢はおわった。



僕には中学生の頃の記憶がない。頑張って思い出そうとしてもそのせいで強い頭痛に襲われて思い出すことができない。でも昨日の話を聞いてその後に見た夢で見かけた少女を照らし合わせると何か既視感を感じた。ひたすらにその既視感が何かを考えていた。今日の授業は考えるあまり全く頭に入っていない。放課後僕は花浜を見つけた。そこは大通りに面した広めの歩道だった。僕が何気なく空を見るとビルの屋上にある大きな看板が揺れているのが見えた。その看板を少し眺めると看板は大きな音を立てて倒れてきた。その落ちる先を見ると花浜がちょうどいた。
僕は咄嗟に
「危ない!」
と叫び花浜を突き飛ばした。その刹那僕は激しい痛みに襲われた。そこでも僕は夢を見ていた。真っ白な空間で一人歩き続ける夢また何度も見た夢だ。歩いて歩いて歩き続けた。その先には見覚えのある少女が立っていた。声をかけ走ってその少女の元へ走る。その少女の顔をよく見ると見覚えのある人物だった。花浜一華だ。その瞬間僕は思い出した。僕の中学生の頃の忘れていた記憶を。
僕は中学生の頃友達と遊んだ帰り一人で家までの帰路を辿っていると遠くに人だかりがあるのを見つけた。みんなの視線の先を見るとビルの屋上に一人の少女が立っていて今にも落ちそうになっていた。その少女が落ちた瞬間僕は本能的に彼女の落下地点を予測して下に入り込んでいた。彼女がどんどん近くに近づいてきている。目の前に彼女がきた瞬間僕は意識を失った。そこで僕は今日まで見ていた夢を見たのを思い出すことができた。
「・・・え、・・まえ、にのまえ!」
僕はハッとしたどこからか僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。目を覚ますとそこには目を真っ赤に腫らした花浜が立っていた。
「花浜さん、僕思い出したよ夢のことはっきりとね。」
僕は思い出した内容を全て話した。すると花浜は大粒の涙を流し泣き始めた。
「そうだよ。私があの時の女の子。自殺しようとしてあなたはクッションになってくれていたの。そのおかげで今の私がある。あの時は恨んだけど今は感謝しているよ。」
僕は全て納得した。花浜が夢の話をしたこと、いじめの話をしたこと、そして僕自身の過去と夢のこと。


エピローグ


僕は病院を退院して元気に学校に行っている。相変わらず友達はいないし一人で本をずっと読んでいるが
、変わったことが一つだけある。それは一人だけ友達と言える存在ができた。友達というよりは親友と言った方が正しいかもしれない。それはあのゴリラだ。花浜一華はあれ以降話すことは無くなったがゴリラは僕があの日花浜を助けたことを知って僕に毎日話しかけるようになった。僕はゴリラと一緒に話をするうちに打ち解けることができ今では週末に遊びにいくほど仲良くなった。それも彼女がいたおかげだ。そんなことを一度花浜に言ったらすごい迷惑をかけただけというが、僕からしたら感謝しかない。僕は友達の大切さ本当の僕の気持ちを見つけて生きることができるようになった。


だから僕は君に紫苑の花を捧げる