「さあ、もうすぐ外へ出られるぞ」
 ダリウスは兵たちを励ますようにいった。

 その言葉通り、二百ガイル(約二百米)ほど自然の洞窟のような通路を進むと、前方から涼やかな空気が流れてきた。
 外気である。
 一行はそれを感じた瞬間、知らずに急ぎ足になっていた。

 出口は極端に狭くなっており、這いつくばる様な姿勢にならなければならない。

 まずは偵察のために、近衛師団百人隊長のケルンが外へ出た。
 暫くなんの反応もない。
 辺りのようすを伺っているのであろう。

「ダリウスさま、周りには誰もおりません。出て来ても大丈夫です」
 みなが不安を抱き始めた頃、ケルンの声が聞こえてきた。

 その言葉に安心したかのようにダリウスは、少年を後ろから抱き抱える格好で、外界へと出てゆく。
 それに続き、兵士達も次々と外へ這い出した。

 外から通路の出口を見ると、それが城内へ続く秘密の抜け道へと繋がっているとは、到底見えなかった。
 辺りの枝をかぶせてしまえば、そこに穴があることさえ気付かれないほどである。
 どうやらここは、どこかの山の中腹辺りだと思われた。

「一体ここはどこなのだろう・・・」
 兵士が口々に、自分たちのいる場所がどこなのかをいい合っている。

「爺、ここはどこなの」
 少年の問いにダリウスは、そこにいるすべての者に説明するように答えた。

「ここは黒森山の中腹でございます」
「えっ、いつもお城から眺めている黒森山なの」
 少年はびっくりした顔で、辺りを見回した。

 黒森山とは、城の北西四ガロス(約四㎞)ほど離れた所にある、公城『星光宮』から最も近くにある、高さ九百ガイル(約九百m)程の山である。

 一年を通じて常緑樹に被われて、常に黒々と見えるために、黒森山と呼ばれている。
 高さの割には嶮しいのが特徴であった。

 地下通路が途中からかなりな角度で昇っているように感じられたのは、錯覚ではなく当然のことだったのである。