心結side
この1週間、クジャクソウの写真を撮りたくて色々な所を回った。
『一目惚れ』という花言葉を使うために、叔父のような写真を撮るために。
そして、写真を使った自分らしい告白をするために。
凛律への気持ちを自覚したのは、凛律が自由になった先週の土曜日。
凛律の「ありがとう」が、俺に向けられていてよかったと思っている自分がいることに気がついた。
俺はあの日、雨に打たれて虚ろな瞳をしている凛律の、痛々しくも綺麗な姿に、一目惚れをしたんだ。
どこかで聞いたことがある。
一目惚れで恋に落ちる速度は、0.2秒という短い時間らしい。
つまり俺は、カメラを構えるより前に凛律に惚れていたのだ。
あまりいい場面ではなかったけれど、そんなことどうでもよく思えるくらい綺麗だったから。
そんな凛律に、いつまでも俺の隣にいてほしい。
そんな気持ちを胸に、気恥ずかしくて目を逸らしてしまいそうなのを必死に堪える。
凛律の返事が聞こえるまで、ひどく時の流れが遅く感じられる。
これが俺の精一杯。
どうか届いて欲しい、凛律への恋の気持ち。
そう願いながら、凛律を見つめる。
そして彼女の口が開いていく。
やっと返事を聞けると思った次の瞬間。
「っ………」
彼女の顔に、笑顔が咲いた。
ただの笑顔じゃない。
向日葵みたいに眩しい、満面の笑みだ。
俺の求めていたものが、今目の前で、こんなにも美しく輝いている。
その状態に感動すると同時に、凛律は言った。
「こんな私でも良ければ、お願いします。私も心結のこと、初めて会った日からずっと大好きだよっ」
嬉し涙を流しながら笑う凛律。
俺も、嬉しさや感動、今まで感じたことのない幸せに涙が溢れる。
少女漫画とかなら、こういう時に相手を抱きしめるのだろう。
でも俺は、
ああ……なんて、綺麗なんだ……
そう思った瞬間に、本能的にカメラを手に取ってしまった。
震える手で慎重に、レンズの中の君を捉える。
「パシャッ」
7枚目の君の写真。
両親に否定されながらも、夢を諦めないでいてよかったと思った瞬間だった。
叔父さん、ごめんなさい。
俺は、叔父さんのクジャクソウよりも綺麗な1枚を見つけてしまった。
俺が追い求めていたのはこの写真。
それは、世界で一番美しい写真。
どんな絶景を収めようとも、これを超えることは出来ない。
この写真にタイトルを付けるなら……そうだな、
『いっとう美しい春の日の夢』
いつもさっぱりしている凛律が笑ったら、その輝きは春みたいで、今のこの状況が俺にとって都合のいい夢に思えるから。
これが心に残らず何が心に残ると言うのか。
自分が一目惚れした相手に、満面の笑みで見つめられている今この瞬間が、死にそうなほど幸せすぎてたまらない。
少し信じられない気持ちもあり、凛律に尋ねる。
「凛律はほんとに……俺のことが、好きなのか……?」
「うんっ、そうだよ心結」
「っ……う……」
「も〜泣かないでよ心結。私もっと泣いちゃうから……っ」
そして2人で大号泣。
嬉し泣きとは、とても幸せなものなのだ。
その時を凛律と過ごせていることに、さらに胸が熱くなる。
そんな俺に凛律は追い討ちをかける。
「私、初恋の相手が心結で本当に幸せ……っ」
初恋……
そうか、凛律に恋をすることが出来る自由なんて、今までなかったからな。
それを言うなら俺だって凛律が初恋だし、凛律の初恋相手になれて嬉しい。
「俺もだよ、凛律」
「っえ?心結かっこいいし、初恋なわけ……」
「いや、凛律が初恋だ」
「……っ」
再び涙を流す凛律に、俺は言う。
「凛律、俺たち2人なら大丈夫だ。もう迷子じゃないから。周りのことなんて気にせず、俺たちらしく生きていける。2人で絶対、夢を叶えよう」
そして、毎日頬が疲れるくらい笑っていよう。
小説家と写真家。
決して簡単な道ではないけれど、絶対に叶えてみせる。
凛律は俺の言葉に、またも眩しい笑顔を浮かべて言った。
「うんっ、約束!」
そして、俺たちは指切りをした後、思い出の場所でキスをした。