凛律side



久しぶりに心結とここで会えるのが楽しみで、早く来すぎちゃったかな。



スマホの画面には14:30と表示されている。



待ち合わせの15時まではまだ時間がある。



橋の下は最後に来た時と何も変わっていないはずなのに、なぜか以前より明るく見える。



これが自由なのかな……



1週間前。



心結に背中を押してもらって、私はお父さんたちの気持ちを知ることが出来た。



あの後家に帰ったら、お母さんが泣きながら謝ってきて少し困っちゃった。



でも、その日家族で食べた夕食は、今までで1番美味しく感じた。



家族って、こんなに温かいんだ……



不器用だったり勇気がなかったりで長い間すれ違っていたけど、心結のおかげでもう大丈夫。



改めて心結にお礼をしたいから、ドーナツも買ってきた。



心結早く来ないかな?



楽しみに待っていると、その10分後に心結がやってきた。



「はぁ、はぁ……凛律!」



「わわ、心結汗だくだよ?急いできたの?」



「あ、ああっ……凛律来るの、早い……っ」



「ご、ごめんねっ」



早く来たのが返ってダメだったみたい。



あ、そうだ。



「心結、先週は本当にありがとう。もう家に帰るのも嫌じゃないし、お父さんもお母さんもすごく優しくしてくれるよ。全部心結のおかげ。それでね、お礼にドーナツを……」



「えっ、マジで?ありがとう。まあ、そうだな。凛律が苦しくなさそうで良かった」



私苦しそうだったの?



そんな顔見せたくなかったんだけどな……



もう遅いか。



私と心結はその場で隣に座った。



「それで、今日はどうしたの?また遊びに行く?」



「いや、今日はどこにも行かない。凛律に伝えたい……見てもらいたいものがあるんだ」



見てもらいたい?



なんだろう?



すると、心結は首にかけていたカメラをバッグに入れて、代わりに束ねてある数枚の写真を取り出した。



1番上の写真を見て気づく。



えっ、これって……



「今まで撮った、私の写真?」



「ああ。“それだけじゃない”けど、裏面も一緒に見てみて欲しいんだ」



そう言った心結の瞳は、真剣な目をしていた。



頬はほんのり赤いようにも見える。



裏面って……何か書いてあるのかな?



私は、順番に目を通した。



1枚目は、私が自殺をしようとしていた時の写真。



裏面には、



『端麗な迷子の少女』



と書いてあった。



これって……



「心結が考えてこの写真にタイトルつけたの?」



「ああ」



「端麗な、迷子の少女……」



あの時の私、心結からは綺麗に見えてたんだ……



心結が今まで、私にどんな景色を覚えたのか気になり、次々と写真を見ていく。





2枚目、初めてソフトクリームを食べた時。

『バニラを恋う少女』




3枚目、ゲームセンターでクレーンゲームをしてる時。

『テディベア誘拐犯の少女』




4枚目、商店街で買い物をしている時。

『細長い世界に魅了された少女』




5枚目、水族館でクラゲを見ている時。

『透明な輝きと双子に生まれた少女』




6枚目、空港で心結にお礼を言った時。

『映画「アウトフォーカス」主演の少女』
『そんな君に





と、途中で切れている。



不思議に思いながらも7枚目。



そこには、私ではなく花の写真があった。



紫色の、可愛らしい花。



「この花って、もしかしてクジャクソウ?」



そう聞くと、心結は黙って頷く。



今までのは私の写真だった。



タイトルを読んで、照れ臭かったり、クスッと笑えたり、胸を締め付けられたり。



なら、この写真は?



心結と出会った日、心結が教えてくれた。



ゆっくり、写真を裏返す。



クジャクソウの花言葉は確か、美しい思い出、悲しみ、そして……



























一目惚れ』













そう、心結の繊細な字で書いてあった。



うそ、でしょ……?



一目惚れってつまり、心結は私のこと……



溢れてくる涙が止まらない。



ぼやける視界の隙間から微かに見える心結の頬は、数分前よりも赤くなっていて。



「俺と、付き合ってください」



風に揺られるスズランのように神妙な声で、彼はそう言った。