いよいよ決戦当日。

 武のコンディションは、最悪だった。それもそうだろう。気持ちが昂りすぎて、前夜に夜更かしをしてしまったのだから。

 目の下にしっかりとしたクマができていたが、それは、何とか伊達メガネで隠し、いつものように爽やかスマイルで学校へとやってきた。

 今日は、合併後初めての行事。校外学習で、バスと船に乗り、巌流島へ行くことになっている。

 巌流島で、班ごとに昼食のバーベキューを楽しんだ後は、自由散策の時間。先日受け取った手紙には、時間の指定はなかったが、タイムスケジュール的に、この時間に指定先である展望広場へ行くことになる。

 呼び出し人である、佐々木小夜子とは、これまで接点らしい接点はなかったのだが、ここ数日、注意深く彼女を観察し、水野からの情報を得て、それなりに、ライバルとなる小夜子の人物像は把握していた。

 成績優秀、スポーツ万能、尚且つ、生徒会活動に熱心に取り組んでいるという話は、本当のようで、先生たちからは厚い信頼を得ているようだ。生徒たちには、少々煙たがられているような感じもあるが、学校を率いる生徒会役員としては、それくらいでちょうど良いだろう。

 となると、心象度合いとしては、学校における新参者の武の方が、少々分が悪いように思われる。しかしそこは、前校から引き継がれた内申書と、新たな学校生活を送ってきたこの短い時間でも十分にカバーができるのではないかというほどに、品行方正な態度で過ごしているので、勝算は、十分に見込めるだろう。

 しかし、やはり、ライバルはいないに越したことはない。佐々木小夜子との初の直接対決で必ず、彼女よりも自身の方が、生徒会長の座にふさわしいということを思い知らせてやるのだと、武は意気込んでいた。

 しかし、それは、バスに乗り込むまでだった。

 巌流島に着き、船から降り立った武は、ふらふらとして、顔面蒼白の状態だった。

「おいおい。大丈夫か、宮本?」
「いや……もう、だめかもしれない」

 伊達メガネを外し、苦しそうに顔を歪める武の背中を、水野が心配そうにさする。

「お前、乗り物弱いもんな。酔い止めちゃんと飲んできたのかよ?」
「……うん。……でも、昨日夜更かしをしたから、たぶんそのせい……」

 武の弱々しい声に、大きくため息を吐いた水野は、呆れたように言う。

「お前、そんなんで本当に大丈夫かよ? 今日が、佐々木小夜子との対決なんだぞ」
「解ってる。それまでには、気分も治る……はず」