佐々木小夜子から宮本武に宛てた手紙を目にした、武の友人、水野は考えていた。

“本日から、一週間後、巌流島の展望広場にて待つ”

 文面からして、やはり、果たし状だろう。

 佐々木小夜子と言えば、編入してまだ日の浅い彼らでも、その存在を知っているほど、校内での知名度は群を抜いている。成績優秀なうえにスポーツ万能。非の打ちどころがない。おまけに見た目も整っている。それなのに、浮いた噂を全く聞かないのは、この学校が、つい最近まで女子高だったからだろう。

 共学ならば、男子生徒が放っておくはずがない。現に、武たちと共に編入した男子生徒は、そのほとんどが、遠巻きに彼女を愛でているのだから。

 しかし、男子生徒が彼女に近づかない理由は、学び舎を共にした日の浅さからではない。彼女に近づかない理由は、ただ一つ。彼女の異名にある。

「なぁ、宮本。《《女帝》》の手紙、どうするんだ?」
「女帝って、佐々木さんのこと?」

 武は、水野の言葉に、少し驚いたような顔を見せる。

「そう。お前、知らないのか? 佐々木小夜子が、学校で女帝って呼ばれてるの」
「全然知らない」
「あいつ、生徒会の副会長だろ。女子に聞いたところ、生徒会に入ってすぐから、会長や、他の役員に有無を言わせない勢いで、学校改革してたらしいぞ。それで、ついたあだ名が、女帝」
「ふ~ん。佐々木さんは、生徒会活動に熱心な人なんだね」

 武は、小夜子にあまり関心がないのか、話を軽く聞き流しているようだった。そんな武の態度に、水野は、小さく苛立つ。

「お前、そんな悠長に構えてていいのかよ?」
「何がさ?」
「だから、佐々木小夜子の手紙だよ。あいつは、次期生徒会長の座を狙ってるって噂だぞ。果たし状だって、きっと、その宣戦布告のためだ」

 捲し立てる水野の言葉に、それまで、あまり会話に興味を示さなかった武が、少し眉間に皺を寄せた。

「それ、ほんと? 佐々木さんが次期生徒会長……」
「ああ。そういう噂だ。なにせ、会長を食う勢いで学校改革をするくらいの女だからな。会長の座を狙っているのは違いないだろう。宮本は、それでいいのか?」
「……それは、ダメだな」
「だろ。合併のドタバタで、今は、前校の女子たちが暫定的に生徒会を続けてやっているけど、お前のことだ。次の会長選にはもちろん、名乗りを上げると思っていたぜ」
「佐々木小夜子さんか……潰すしかないね」

 武の闘志に火が付いたのを見て取った水野は、ニヤリと小さくほくそ笑んだ。