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 わたしが作詞したデビュー曲は新人としては大成功の10万枚のヒットになり、150万円の印税が入ってきた。その上、2作目の作詞依頼が来た。『爽やかで、かつ、甘酸っぱい恋の歌』を求められていた。契約金は無かったが、印税率は1.7パーセントにアップした。この曲がヒットしたら、わたしの、いや、わたしたちの次の夢が叶うかもしれないと思うと、思わず肩に力が入った。しかしそんな状態で爽やかな歌詞を生み出すことは無理なので、大きく息を吐いて体中の力みを追い出し、心を無にするために目を閉じた。すると、静かな森や、そこを流れる小川、爽やかな風、穏やかな海、日暮れの街角が浮かんできた。それはイメージにぴったりの情景だった。その中に結城の顔を重ねると、付き合い始めた頃の切ない想いが蘇ってきた。わたしはペンを握り、ノートに向き合った。

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 『リメンバー』     作詞:高夢才叶

 忘れかけてた愛の日々は、通り過ぎる夏のように
 一つ一つぼくの胸に、言葉もなく甦るよ

  それは、静かな森の小川の流れ
  それは、静かな風のかすかな微笑
  あなたのために、アイラヴユー、アイラヴユー、ワンスモアタイム
    
 忘れかけてた愛の日々は、一人ぼっちの海のように
 いつの間にか僕の胸に、そっと静かに忍び込んで

  それは、秋の海の少女のように
  それは、冬の街の日暮れのように
  忘れられない、アイラヴユー、アイラヴユー、ワンスモアタイム

  それは、静かな森の小川の流れ
  それは、静かな風のかすかな微笑
  あなたのために、アイラヴユー、アイラヴユー、ワンスモアタイム

          ♪  ♪

 出来上がった曲は、わたしのイメージ通り、いや、それ以上のものだった。爽やかで甘酸っぱいメロディーラインが男性デュオのハーモニーにぴったりだと思った。発売は初夏に決まった。
 発売元の音楽会社が広告宣伝に力を入れ、ミニ・ライヴを数多くこなした結果、男性デュオはテレビのベストテン番組に出るようになった。すると、口ずさみやすいシンプルなメロディーラインが多くの人に支持されたのか、予想以上のスピードで売上を伸ばしていった。しかも10代や20代だけでなく流行のJ・POPについていけなくなった30代や40代の層までファンが広がっていったので、最終的に20万枚のヒットになった。その結果、印税として340万円が入ってきた。わたしは心に温めていたことを実行することにした。