笑顔の社長に見送られて駅へ向かって歩いている時だった。「才高さん、お祝いしましょう」と突然、結城が言った。
「お祝い? なんの?」
「才高さんの初仕事のお祝い」
「えっ? わたしのお祝い?」
 思い切り戸惑った。無事に終えることができたとはいえ、今回の仕事はわたしの力だけでできたわけではない。彼女の力添えが無ければ、彼女が撮った素晴らしい写真が無ければ、こんなに完成度の高いものはできなかった。だから2人のお祝いにしようと提案すると、彼女はにっこり笑って頷いてくれた。
 
 結城がたまに行くという洋風居酒屋で乾杯した。ビールが、久しぶりの生ビールが旨かった。精一杯仕事をして、やり遂げて、結果を出して仲間と祝うビールの旨さを初めて知った。
 クゥ~、幸せ!
 天国へ昇るような気持ちになった。体中の細胞が活性化して一気に2杯目を飲み干すと絶好調になった。ビールが進めば進むほど美顔の社長やパンフレットの話で盛り上がり、結城と何度もジョッキを合わせた。楽しかった。本当に楽しかった。
 彼女の笑顔を見ながら今が渡すチャンスだと思ったので、紙袋をそっと彼女に差し出した。すると彼女は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに笑みを浮かべてわたしに礼を言った。しかし、受け取ろうとはしなかった。
 それは予想していたことだった。だから笑いを取るような口調で「わたしが貰っても豚に真珠だからね」と告げてもう一度彼女に差し出した。「それに、君に使ってもらいたいから」。少し照れたが、歩きながら考えていた言葉を口に出すことができた。
 一瞬彼女は躊躇いを見せたが、それでも小さな声で「ありがとう」と言って、今度は受け取ってくれた。わたしはさっきより照れ臭くなってジョッキに残ったビールを一気に飲み干したが、何を話したらいいのかわからなくなったのでトイレに立った。
 鏡に顔を映すと目の周りに赤みがさしていた。蛇口をひねって水道水で顔を洗って酔いと火照りを鎮めた。