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 会社案内が出来上がったので結城と美顔本社へ向かった。初めての仕事だったので不安は大きかったが、結城が褒めてくれていたので期待する気持ちも少なからずあった。それでも応接室で社長を待つ間はドキドキが止まらなかった。目を通した社長の顔が曇ってしまうことだってあるからだ。そうなるとやり直しになるか、担当を変えられることだってある。どちらにしても大変なことになるのだ。しかし、その心配は杞憂(きゆう)に終わった。
「最高の出来栄えですね。さすが才高さん! それに、写真が素晴らしいですね。私の顔も社員の顔も本当に自然で、表情豊かで。その上、健やかパークで楽しむ会員様の表情が生き生きとしていて、また素晴らしい!」
 極上の褒め言葉にわたしだけでなく結城の顔もパッと明るくなった。すると、秘書から社名入りの紙袋を受け取った社長が「ささやかな御礼ですが」と言ってそれを差し出した。わたしと結城に一つずつ。中には化粧品のセット、それも、最高級のプレミアム・シリーズが入っているという。
「低刺激性と高い保湿力を両立させた我が社イチ押しの製品ですので、是非お試しください」
 すると社長の笑顔が乗り移ったかのように結城の顔が一気に綻んだ。実は、彼女は取材を始めてから美顔のエントリー・シリーズを使い始めていたのだが、本当に使いたかったのはプレミアム・シリーズだった。しかし、契約社員の給料で手が届く価格ではなかった。「私には高嶺の花だから……」とため息をつく彼女を見てわたしも切なくなったものだ。取材で色々と気を遣ってくれている彼女にプレゼントしたかったが、わたしの給料ではどうしようもなかった。だから、次の給料が出たらエントリー・シリーズの化粧水と乳液を買ってプレゼントしようと考えていた。そんな時、わたしたちの許へ季節外れのサンタがいきなりやって来た。それもこれ以上はないというプレゼントを持って。
 わたしは目の前で微笑んでいる綺麗に髭剃りをしたサンタに向かって何度も頭を下げた。そして、自分の紙袋を結城に渡す瞬間を思い描いた。