月日は流れ、夏が終わり冬が訪れた。

「いやーほんと寒くなったね!この前夏祭りとか海とか行ったばっかりじゃん!」
「本当にそうだよ。それに、秋には小晴が街の大食い大会に出て見事な負けっぷりを見せてくれたしね。」
「あー、あれは少し苦い思い出かも、」
「いやー楽しかったね、今も思い出し笑いするぐらいには。」
「この1年は本当に充実してたなあ!それに、全部心と過ごしたから楽しかったんだよ?」
「、、僕の懐からは何も出ないよ?」
「そういう意味じゃないって!」

お互い吹き出して笑っていた。僕はなんて幸せなんだろう。

それから、僕たちはたまに一緒に行っていた登下校は毎日へとかわり、お昼も一緒に過ごしていた。彼女の友達に「この人が彼氏さん?」と聞かれるのもなれたもんだ。僕は友達があまりいないので、こういう他人との関わりは、新鮮だった。
放課後になると、ゲームセンターにいったり、カフェに行ったりはたまた公園のブランコで競争を挑まれて、ガチで勝ちにこられたり。彼女と過ごすことでエネルギーになっていると感じている僕は、この日常がだんだんと生きがいになっていた。


ある日の昼下がり、僕達は目的地までの道をたどっていた。今日は、教師側の大事な会議があるみたいで、昼には帰ることになっていたのだ。彼女の寒い時に水族館に行きたいという強いこだわりから、今日は午後の時間をめいいっぱい使って水族館に行く計画を立てていたのだ。小さめな水族館なら学校の近くにあったので、そこにいくことにした。

「ねえ小晴?水族館に行ったら何みたい?」
「んー、クマノミ!イソギンチャクからうようよ出てくるところ見たい!」
「僕はクラゲ。あの無気力で何も考えてなさそうに泳いでるのって何故か、神秘的とおもう」
「あんた着眼点おかしいよ」
「真っ当な意見だと思うけどな。」
「そういえば、後どのくらいで着くのー?」
「10分くらいかな」
「心隊長了解した!」
「小晴はいつもそうやって僕を何かの上の立場にしてくるね」
「だって心が頼もしすぎるんだもーん!私の支えになる人!よっ!心様!」

僕達はバスを降り、歩きながらこんな話をしていると、お互いに面白くなってしまい声を出して笑っていた。
すると突然、背後から叫び声が聞こえた。何事かと思い後ろを向いた時には、もう遅かった。
ブレーキも掛けず、歩道に突っ込んでくる自動車が目の前に迫っていたのだ。


僕は、救急車やパトカーのサイレンの音で目を覚ました。一瞬だけ気絶していたのだろうか。車が迫って来た時に見た景色とは違って、僕の前には地面があった。目線をずらして辺りを見てみると、そこには全身傷だらけで頭から血を流している彼女の姿があった。体を動かそうとしても、その都度激痛が走って動けない。僕もきっと軽傷ではない。もう目の前が霞んできていた。痛い。辛い。助けてほしい。様々な負の感情が湧き起こっている。でも僕は、意識のないように見える彼女を、最優先に助けて欲しかった。

「誰か、、!た、助けて」

最後の力を振り絞って叫んだ。そうすると、救急隊の方が駆けつけてくれた。「大丈夫ですか!今運びますからね!」と僕に対して処置を施そうとしていてくれた。でも僕はその手を振り払った。

「僕じゃない!あそこにいる、彼女を先に、、!勝手な判断だけど、動かないし、意識がないように、、。僕より先にお願いします!」

そう伝えたえたら、「わかりました」と彼女の元に走ってくれた。
だんだんと意識が遠のいていく。僕の元に別の隊員を派遣してくれたみたい。走ってくる足音が聞こえる。しかし、その救急隊に声をかけられる前に僕の意識は途切れた。多数の被害者の助けを求める悲痛な声や、走り回る隊員の音だけが僕の耳に残っていた。

次に目が覚めると、僕は病院にいた。やっぱり、体を動かそうとしただけで激痛が走った。あたりを見回しても彼女の姿はない。どこにいるか知りたくて、会いたくて、僕はナースコールを鳴らした。その時心の中で、多少の嫌な予感を感じた。

「雨宮さん目を覚ましたんですね、よかったです。どうなさいましたかー?」

と、看護師さんが来てくれた。

「行きたいところがあるんです。彼女の部屋に、朝日奈小晴さんのところに連れて行って貰えませんか?」
「朝日奈さんのところですか、。」

嫌な予感っていうものはどうしてこんなにも的中してしまうのか。顔を曇らす看護師さんを前に、僕は迷っていた。どんな状態になってても知りたい会いたいという気持ちと、"もし彼女が"となってた時その現実を味わう恐怖。
でも僕は彼女のことを愛すって、守るって決めていたんだから。当然その迷いはすぐに無くなった。

「看護師さん、大丈夫です。彼女に合わせてください。」

僕は真剣に、強く言った。例えどんな姿でも、僕は彼女のことを一生愛するって決めたんだ。
看護師さんに、痛みで自力で動くことの難しい僕を車椅子に固定をして貰い、彼女の元に向かった。心の中で大丈夫、大丈夫と唱えながら向かった。

「こんにちは。」

そこには彼女の母親がいた。そして、たくさんの管に繋がれ、普段とは見違える彼女がいた。僕が挨拶をすると、声にならない声で挨拶を返してくれ、会釈してくれた。
でもその顔はどこか、喪失感が現れていた。看護師さんは、何かあったら呼んでくださいと部屋を退室した。