”ブーブー“
スマホのバイブが反応した。なんだ?と思って表示された通知を開いてみると、彼女からのメッセージがあった。

"少し遅れるかも!ごめん!"

今日は夏祭り当日。きっとこれは女の子にとって気合を入れる一大イベントなのだろう。そんな彼女の気持ちを尊重し、「了解」と返信した。
僕も浴衣を着て髪の毛もセットして、本当お祭り気分で浮かれてる。こんな風に高揚している気持ちは初めてだ。
そんなことを思っていると、18時近くになっていて、僕は少し慌てて家を出た。流石に連絡してくれた彼女より遅くつくのはまずい。
ある程度急いだ後、公園までの道を歩いた。普段は気づかない、暑さと共に流れる季節の変わりを感じた。
少し前まであの桜の木にはピンクが踊ってたのに、今は緑が主役で。少し肌寒かったのもじめっとした暑さに変わっていき、時が過ぎていくことを体感する。
感傷に浸りながら歩いていると、待ち合わせの場所についていた。

「よし、まだ小晴はついてない、よかった。」

そう言葉をこぼすと、

「まった?」

と、彼女の声がし、僕は声の方に振り向いた

「・・・!?」

僕は言葉に出来なかった。なぜか、そこにはまるで"晴れ"のように輝いている、白と淡い水色で包まれてた美しい彼女がいたのだ。

「変、じゃないかな?」

恥ずかしそうに、綺麗に巻かれている下めのツインテールの毛先をくるくるとしていた。

「変じゃない。、も、ものすごく可愛いよ」

口下手な僕にとって、最大級の褒め言葉だった。

「心も浴衣きてるじゃん、」

そう言われた僕の顔も赤くなっていった。

「なんかちょっと恥ずかしいね」
「うん、恥ずかしい」
「じゃあいこっか。」

僕達はそんな初々しい言葉を交わして、祭りへ足を運んだ。恋人らしく手を繋いだりして。

賑やかな祭りの会場を前に、僕達はもう既に子供のようにはしゃいでいた。
会場では色とりどりの屋台が並び、とても美味しそうな匂いも漂っている。僕達は一緒に屋台を巡り、彼女は流行りの食べ物に興味津々になっている。

「あれ食べない?」
「ん?何あれ。フルーツの、、なに?」
「タンフルっていうの!」
「タンフル?」
「そう!日本語ではフルーツ飴、韓国語になるとタンフルって言うんだよ」
「そういう食べ物があるんだね、。りんご飴的なもの、だよね?」
「この食べ物を知らないなんて、心本当に最近の流行りわかってないね!おじさーん」

彼女は、そのフルーツ飴とやらを購入し、楽しそうにケラケラと笑っている。その笑みが本当に憎たらしい時もあるが、結局は可愛いのでセーフ。

「りんご飴と大差がなさそうに見えるけど、何が若者の心を掴んだんだ?本当に美味しいのか?」
「わかったわかったから!ほんと失礼なやつ!ほら食べてみて!」

口にぐっと押し付けられて初めて食べたフルーツ飴は、とても美味しかった。きっと僕は普通に食べるとやはり大差ないと考えてしまうのだろう。だけど、彼女と過ごしているからという夏祭りハイなのか、すごく美味しく感じてしまっていた。
こうして、盆踊りに参加してみたり金魚すくいをしたりして花火までの時間は楽しく過ぎていった。

「楽しかったね~!盆踊りの心の踊れなさっぷり最高!」
「もうあんな思いは二度とごめんだ、」
「リズム感無さすぎておじさんとおばさんの方が若く見えたよ。運動できないわけじゃないのに、心やばいね、危険だよ。」
「うるさい。じゃあ僕の方が金魚すくい上手かったじゃないか。小晴はえっと何匹だっけ?2匹?」
「ぜ、0匹だけど。」
「お互い様ってことさ。ほら、もう花火が始まっちゃうよ?」

あっと急ぐ彼女に僕はマイペースにしていると、

「やばい!早く行かないと!場所無くなる!」

グイッと僕の手を掴み走っていく彼女に連れられ、コケかけた。
ふと空を見ると、僕たちの走るペースに合わせてくれる夜空はなんだか、見守ってくれる世界の母親だと思えた。



「場所、ある?」

少しだけ走り、会場に着いた僕たちは、落ち着いて見れるような場所を探した。

「あ!あそこ!」

彼女が指さしたところは、偶然にもぽっかりと人がいなかった。当たりを見回しても、場所取りもしてる感じはしなかったので、僕達はそこに座り花火を待った。
待ってる間も目を輝かせてる彼女は、とても美しかったので1枚写真に収めてしまった。わくわくしているその姿を見逃したくなった僕は、静かに動画を回したが、録音開始の音にきづかれて照れる彼女が残る。

「撮ってる!?もー撮るなら言ってよー!絶対変な顔してた、。」
「大丈夫だよ。すごく可愛いから。」
「もー心ったら何言ってるの!」

今この瞬間にしか味わえない空間、端的に言うと最高だ。
ちょうどその時

ヒュ~~~
ドーン

一発目の花火が始まった。大きくて音や見た目の迫力がすごくて、何か心にくるものがあった。

「まだ撮ってるの?こういうのを残したい気持ちはわかるけど、本当に美しいものは2つの目でみるんだよ!」
「2つの目?」
「そう2つの目。"この目"と"ここの目"」

自分の目と心を指した彼女は、これは持論ね!
と言い花火の世界へ戻った。
動画を止めて彼女に言われたように2つの目を意識して見るようにした。
数々の花火が打ち上がっていき、彼女の言う意味がわかった時、僕は感動した。パッと輝き華やかに散る花火がこんなにも素敵なものだなんて思わなかったからだ。それに、大好きな彼女とみたからすごく特別だとも思うんだ。
そして、フィナーレに近づいた時、彼女の目からは涙が出ていた。

「小晴どうしたの?」
「この特別な時間が終わるのが寂しいの。だって、人生で大切にしたいって思う人と見る花火はすごく美しくて、私の心にグッと来るものだなんて思わなかったから、」
「僕も同じ気持ちだよ。花火自体にも迫力があって感動するものなのに、今日こうやって小晴と見たから、心がすごく落ち着かない、、。」
「やっぱり私たちって出会うべくして出会った運命の人なんだと思うの。」
「小晴、、。」
「、、、って急に何言ってんだって話だよね!花火に興奮し過ぎ!」

僕の中で、大きい何かが動いている。花火に負けないくらい心臓の音がうるさくて、愛し愛されるということがわからなかった僕は、やっとこういうことかと理解することができた。

「きっと運命だよ」

ヒュ〜〜〜
ドーン

そういった時、最後の大きな大きな花火が打ち上がる。この夏祭りの中で、僕達はよりお互いにより意識するようになったと思う。本当に特別で大切な時間だった。そして、この時間が何年先もあり続けられるようにと願った。