『瑠歌さん、支配人は何をしようとしているんですか!?』
『私達はどうしたらいいですか!?』

 彼がやろうとしている事がわからない現場はパニックに陥り、インカム越しに不安の声まで届く。

「ちょっと待って、今考えてる」

 返答には私も困惑していた。本番のアクシデントは確かに付き物だけれど、スタッフの……それも支配人が独断行動をするなんて初めての事。どうすればいいのかなんて、こっちが聴きたいくらい。

 未だ聞こえて来る子供達の泣く声と、何をしようとしているのかよくわからない支配人の言動、差し迫る時間に私は頭を悩ませませていた。
 ……と、そんな時。

『瑠歌! 扉を開けるよ!』

 仁菜からインカムに明るい声が入る。
 
「開けるって!? だってまだ何もっ」
『大丈夫! 子供達はもう泣き止んでるから!』
「え?」

 1人で考え込んでいたせいでまわりを把握していなかった。けれど仁菜の言うように扉の向こうからは泣く声が聞こえてこない。それどころか、大人も含めて歓声に近い声に変わっている。

「何が起きたの!?」
『あの支配人、案外やるじゃん』
「支配人……」

 司会を任せられているはずの仁菜の本音に『いったい彼は何をしたんだろ?』なんて余計な事を思いながら、新郎新婦に声を掛けて観音扉を開け放つ。