あぁぁ、またダメだ、いけない。こんな時に落ち込んでる場合じゃないのに。

 父の手を離れた新婦が新郎の隣へと立ち、その腕に手を通し祭壇へと続く階段を進んでいく姿を、会場の隅から温かく見守っていたところにインカムから憎たらしい号令が耳に入る。

『おい、ボーっとしてんな。披露宴の準備するぞ、持ち場につけ』
「わかってますよ」

 幸せの余韻も残さない彼からの業務連絡に反抗的な返事をし、マイクのスイッチを切った後『いかにも”戦闘開始”みたいなやめてほしいわ』なんてブツブツ小言を言いながら、スタッフ専用の出入り口から静かに会場を後にした。

 挙式が終わりチャペルから出て大階段を降りる2人の門出をブライダルシャワーで送ったあと、全員が披露宴会場に移動。予定時間もズレる事なく新郎新婦の入場から始まって、乾杯の挨拶に食事の歓談時間も通常通り《《事》》が進んでいく。

「それではここで、新婦のお色直しとなります」

 今日の式の受付を担当している仁菜の言葉が、前半の終わりを告げる。
 歓談中のクラシック音楽から明るい曲調のものへと変わり、この時間(とき)を待ちわびていた会場内のゲスト達はスマホのカメラの準備を始め、『何色のドレスに着替えるのかな』と心躍るワクワクした声が各テーブルから聞こえてくる。