瞬きもせず床の一点を見つめながら『もしそうなったら俺は……』と嘆くのは、さすがに落ち込みすぎな気がする。

「何もそこまで考えすぎる事はないかと……。少し態度を改めて気を付けて頂ければいいだけの話ですし」

 叱りつけた子犬がまるで尻尾を丸めて怯えているような彼の姿に、やりすぎたかなとなぜか私が反省してフォローの声を掛けてみると、彼はいきなり顔を上げ真剣な表情でこちらを向いて言う。

「なぁ。どうしたら怖がられないか、俺に教えろ」
「……へ?」
「俺は女が苦手なんだ。優しくとか穏やかとか無理だ、どう接していいかわからん。だがお前ならわかんだろ!? だったら俺に教えろ!」
「……はぁぁ?」

 もの凄い《《圧》》で何を言い出すかと思えば、子供の教育じゃあるまいしどうしてそんな事を私にお願いするの。仕事だけでも関わるのが苦だって言うのに、個人的な苦手克服のために使われるなんて冗談じゃないって。

「お断りします」
「は!?」
「嫌に決まっているじゃないですか。自分で頑張ってなんとかしてください」

 どうして私がそんな事しなきゃいけないのと小声で愚痴を吐きつつ『準備に戻ります』と最後に付け加え、先程まで飾り付けていたテーブルに戻ろうと桐葉さんに背を向ける。

「お、おいっ!」

 止めようと焦る声に首を横に振って、私はその要求に応える事はしなかった。