仁菜の言う通り、私はまだ凪から貰ったプレゼント達を捨てられない。
 特に誕生日に貰ったネックレスは、ずっと大事に着けていただけに簡単には手放せなくて、家のテーブルの引き出しに閉まったまま。

「こういうのが未練がましいって言うんだよね……」

 一口、珈琲を飲みながら私は自分に言い聞かせる。『こんなの早くやめなきゃ』って。

「すぐに前向きになるなんて難しいだろうけどさ、今週末の式は忙しいからね。今はそっちに向けて頑張ろ!」

 グッと親指を立てて元気付けてくれる仁菜に、私はコクンと頷いてまた力無く笑って見せた。


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 5月、最後の土曜日。桐葉さんにダメ出しされた式のプランの手直しが済み、無事に当日を迎えいつも通り順調に準備が進むはず……だったんだけど。

「おい早くしろ! 間に合わなくなるぞ!」

 腕を組み、スタッフを右へ左へと走らせる桐葉さんは今日も絶好調に鬼だ。
 
「そっちは違うだろ! 逆だ逆っ!」

 強い言葉で指図する口調に、若い女性スタッフ達が怯えた様子で彼の目を気にしている。
 ふてぶてしく横暴な態度に見兼ねた私は、もう溜め息しか出てこない。

「ちょっと桐葉さん。その言い方なんとかなりません?みんな怖がってます」
「仕事なんだから厳しくて当然だ」

 テーブルの飾り付けの合間に近寄って注意してみるも、こっちに視線を向ける事もなく吐き捨てられた。