怒りを込めて言った訳じゃなかったけれど、思わず感情が前のめりになってしまい凪も驚いたように目を見開いている。
 そしてそれを隣で聞いていた桐葉さんは、腕を組み憎たらしく口角を上げ、人の弱みにつけ込んでくる。

「酷い言われようだな。こっちは泥酔したお前をホテルで《《介抱》》してやったっていうのに」
「なっ」
「そういえばあの夜は凄い乱れようだったなぁ」

 ニヤりと不敵な笑みを浮かべるこの男は、明らかに凪に誤解を与えるよう作為的に捏造している。
 わかってやってるから余計に腹が立ち、今度は桐葉さんの方に顔を向けて反撃。

「あることないこと言わないでよ! あれはそんなんじゃ―――」
「ホテルって……?」

 怒鳴って言い返していた背後から、遮るように凪の一言が耳に入って……私は固まった。

 1番知ってほしくない、触れてほしくなかった事を聞かれるなんて。

「それは、その……」

 言い掛けて、喉に何かが引っ掛かったみたいに言葉が詰まる。凪が真顔のまま私を見つめるからその視線を逸らす事も出来ず、どう説明しようかなんて考えれば考えるほど背中に冷や汗が伝う。
 
「そっか。2人でホテルに行ったんだ……」
「だからそれはっ」
「あぁ。そうだ」

 否定も出来ないまま凪は納得してしまうし、全てが無駄になるような一言を突きつけてくる桐葉さんに、愕然とした。