本当は声を《《大》》にして言いたいところだけど、凪からの質問にも答えていない今の状況で、下手な事が喋れない。
言ってしまったら最後、嫌な予感しかしないから。
「瑠歌、平気?」
背後から心配そうに私に気遣ってくれる凪の声。桐葉さんとの間で《《何かがあった》》なんて悟られないようにしなきゃと、しゃがみ込んだ状態のまま顔だけ振り向いて『平気平気』と力無く笑ってみる。
「でも顔だし痣になったらまずい。1度診てもらった方がいいと思う」
眉尻を下げて困ったような表情を浮かべる彼は、別れてもやっぱり優しい。もしかしたらまだ私の事を想ってくれているのかな……とか期待してしまうくらいに。
「瑠歌?」
不安げに何度も何度も私を呼ばないで。その度に気持ちがグラグラするから……
あぁぁ、いけない。しっかりしなきゃ。
「んなとこに突っ立ってるお前が悪いんだろ。それに大袈裟。たいした怪我じゃない」
「はいはい、すみませんね」
感傷に浸る私に水を差す桐葉さんは、また鼻で笑いながら余計な一言が多い。
優しくないこの人と凪では雲泥の差だ。
一気に冷めて急に現実に引き戻された私は、しゃがみ込んでいた腰を上げ相変わらず痛む額を気にしていると、穏やかに目を細め凪は微笑みながら言う。
「仲が良いんだね」
って。
「冗談じゃない! 誰がこんな人とっ」
思わず感情が昂ってしまい私は声を荒げてしまう。