口が重くなる。
凪の勘違い…じゃない。そうじゃないだけに困った。私も知り合ったばかりだから正確には“1度会った事がある程度”くらいだけど、まさか先日の経緯を話す訳にもいかないし……
無い知恵絞って頭をフル回転させ嘘の理由を考えてみたけど、たいした言い訳が思いつかない。『昨日偶然に街中で会って』とか言ったら信じてくれるんだろうか。それとも泥酔さえ白状しなければ、BARで会った事くらいは話してもいいものだろうか。
真剣な表情で返答を待つ凪を前に最善の答えを巡らせていると、背後から“ガチャ”とドアの開く音がし、と同時に私は反射的に振り返ってしまった。
すると次の瞬間、外開きの扉が勢い良く私の顔面にクリーンヒット。
「いったぁぁ」
あまりに強い痛みの衝撃で額を抑えてその場にしゃがみこんで悶えていると、開けた張本人は鼻で笑う。
「なんだお前、まだそんなところにいたのか」
「……っ」
「んでそこで何してんだ?」
「あなたねぇ!」
他人事みたいに悠長なこと言ってる場合じゃないんだけどと、痛みで涙目になりながら『まわりに人がいる《《かもしれない》》って気持ちで静かに開けてよ!』と私は必死に口パクで伝えてみるが。
「は? なに言ってんだ?」
もちろん彼に伝わるはずもなく、今度は怪訝そうな表情で見下してくる。