「瑠花、悪い……ここだけど、さ」
「え、うん……」

 話し掛けるのが気まずそうに、辿々しくこちらに近付きプランナーファイルを開いて見せる男。
 少し日に焼けた小麦肌に、奥二重の猫目とアッシュブラウンの癖っ毛が特徴の彼がそう、私の彼氏《《だった》》相手。“鷹松 凪(たかまつ なぎ)
 私はこの男に、捨てられた。


 
 昨日、何が起きたかなんて私自身が教えて欲しいくらい―――――


***



「は? 急に何言ってんの?」

 申し訳なさそうに、だけどどこかスッキリとした表情で私に『別れたい』と言った男を目の前に、こっちは状況が掴めず愕然と目を見開くしか出来ずにいる。

「本当、ごめん」

 彼の口から発せられるのは謝罪の台詞ばかり。
 
 交際2年が経ったけど、仲は良かった……と思っている。2人ともアウトドア派だから旅行やキャンプに行っていたし、お酒が好きでよく居酒屋で飲んだりもした。喧嘩だってした事なかったのに。
 結婚を視野に同棲する話を出したのは私の方。お互いなかなか休みが合わないから、日程を調整しながら賃貸会社をまわろうって話していたはず。
 それで?その続きがこれって、どういう事?

「ごめん」
「謝るんじゃなくて説明が欲しいんだけど」
 
 もう何度目かの『ごめん』にウンザリした私は、それよりも『好きな人が出来たって、いったい誰? いつから?』と、知りたい気持ちの方が上のせいか少し語尾が強まる。