結局、その話はそれっきりで触れる事も触れられる事もなく、2時間ほど無言のまま静かな時間が流れていった。
黙々と資料を見る彼を目の前に私も《《貝》》のように口を閉ざし、掛時計の秒を刻む音だけをただただ聴いているだけ。
気がつけばもう昼間近。私も私でこの後は次の打ち合わせがあるし、この分なら彼1人でも十分かなと思い椅子から立ち上がる。
「そろそろ失礼しますね。お昼入る前に次の打ち合わせがあるので」
未だ真剣に装飾デザインのファイルを凝視している桐葉さんの返答を待つも、ピクりとも反応しなければ顔も上げようともしない。これは完全に無視状態。
半ば呆れた私は、彼を残してそのまま部屋を後にしたーーー
***
「疲れたな……」
ドアを背に、ふぅーっと息を吐いて項垂れる。
朝の短時間で、1日分の仕事をしたかのようなエネルギーの消費量と疲労感。終始無言のまま2人きりの密室で、変に緊張したせいだ絶対。こんなのが毎日続くと思うと気が滅入りそう。“仕事出来るオーラ”が凄いし。
やっと解放された気分。と、ホッと胸を撫で下ろすと、視界に人影を感じて顔を上げた。
「瑠歌」
と、私の名前を呼んだのは、なんとも複雑そうな表情を浮かべる元カレの凪。担当しているお客様との打ち合わせが終わったばかりなのか、手には数冊のブライダルノートを抱えている。