何を言う訳でもそんな彼を、私は黙って見守っているだけの状態。
 BGMでも掛けて気を紛らわせたいくらい静寂に包まれた空間は、普段なら何も気にならないのに今日は相手が悪いせいか音楽が必須に感じる。
 あの夜の事あるし……

「あの……先日の事なんですけど」
「世間話はあとにしてくれ」

 顔を上げる事もなく目線はファイルに、冷たく突き放されてしまう。
 そう来るよなとわかっていながら私は続ける。

「いや、そうではなくて。先日の夜の事、まだちゃんとお礼を言っていなかったので……」
「礼?」

 やっと聞く耳を持ってくれたようだけど、渋々ながら顔を上げるその表情からは嫌悪感しか感じられず、迷惑極まりないって気持ちが物凄く伝わってくる。

「助けて貰ったので……」
「あー、あの事か。勘違いするな。お前の為にした訳じゃない」
「まぁそうかもしれないですけど……」
「あのまま路上に放置して、もし何かあったらこっちも後味が悪いからな。後々に何言われるかわからんし、それに俺まで事件に巻き込まれるのは勘弁だ。だから別に礼を言われる筋合いはない」
「は、はぁ……」

 あまりに清々しいくらいの利己的な考えに、私はある意味で感心した。“開いた口が塞がらない”って、こういう事を言うんだなって。

 自己主張をするだけしてまた目線をファイルに戻す彼からは、『言い過ぎた』と言う気持ちと”優しさ“の文字が一切見受けられない。
 言い方に思いやりってものはないの? 助けてくれた事は感謝してるけど。