男の言う通り、衣類掛けの棚にはブレザーがハンガーに綺麗に掛けられている。
あの人がここまでしてくれたとは……優しいの? 冷たいの?
ブツブツ言いながらドアのすぐ近くに設置されている姿見を見て、『確かにあの人の言う通りだな……』って自分の悲惨な顔に納得と消沈。嫁入り前だと言うのにこんなの見られるなんて。
「シャワー浴びよ……」
思い悩んでも仕方ないと思うようにし、私はユニットバスへと気怠い身体で歩みを進め、さっぱりしてからスッピンのままチェックアウトを済ませて外へ。幸いにも、ホテルがBARの近くで帰りには困らなさそう。
朝の7時。5月の外気はまだひんやりとしていて、嫌でも頭の中がスッキリする。そのおかげか昨日の抜けていた記憶ずつ蘇ってきたな……
「確かあの男の人に起こされて……タクシーに乗って……えっと、それから車酔いで・・・あ~…」
悲惨な事態まで思い出して両手で顔を覆った。
そう―――私はあの後、車酔いで降りた途端にリバースする失態をおかしたんだ。気持ち悪くてそれはそれは盛大に。
名前も知らない初対面の相手のそんな姿を見たら、そりゃもう二度と関わりたくないだろうね。
お持ち帰りも嫌だけど、30歳にもなってこんな朝を迎えるのも最悪。でもたぶんあの人とは逢う事もないだろうし、忘れよう。
……と思っていたのに、まさかまた再会するなんて――――