「さすがにそのまま放置して何かあってもマズイからな。かと言って鞄の中を漁ってまで家を特定する訳にいかないし、それで仕方なくタクシーを呼んで俺が泊まってるここに連れてきたんだ」
「全然覚えてない……」
どうやら昨晩の私は相当だったみたい。
「すみません……本当。何から何まで……」
「まったくな。人助けしてやったのに犯罪者扱いとか勘弁してくれ」
そう言いながら男はまた1つ溜め息を吐く。これは怒ってるってより呆れている?
怪しい人だなんて思ったのは悪かったけども。
「まぁとりあえず思い出したならいい。それだけ確認しに来ただけだから」
「その為だけにわざわざ来てくださったんですか?」
「そりゃあな。昨晩あれだけ飲んでたんだ。どうせ今朝は覚えてないだろうし説明くらいしないとお前も困ると思ったからな」
「ど、どうも…」
あら。意外と優しい? 確かにマスターが言ってた通りの人なのかも?
「しかしもう金輪際は勘弁してくれ。相手をする気も、面倒を見る気もない。いい迷惑だ。それと化粧が凄い事になってるぞ」
「なっ」
突然の辛辣な言葉と『ジャケットはハンガーに掛けてある』とだけ残して、男は押さえていた手を放してしまい、そのままドアは自動で閉まっていくのを見送る形に。
初対面だって言うのにあんな言い方……
って、元はと言えば私が悪いから何も言い返せないんだけどさぁ。