「け、警察呼びますよ!!」
男の行動があまりの恐怖で、裏声になりながらも思わず大声を上げてしまうと、何事かと他の部屋の客達が廊下に出てくる事態に。
「ま、待て! お、落ち着け。お前……もしかして昨夜のBARでのこと覚えてないのか?」
男もこの状況に焦ったよう。まわりの客達の視線を気にしながら、出来るだけ小声で私に話掛けてきた。
それも昨夜のBARでの事を知っている口ぶり。
「その感じだとやっぱ覚えてないか」
臨戦態勢を崩さない私の強張る表情で察したのか、男は盛大な溜め息を吐きながら項垂れ、呆れたように言う。
「煙草を吸い終わって店に戻ってみたら、お前相当酔っててマスターに《《くだ》》巻いてたんだぞ。しかもいきなりこっちにまで振ってきて、愚痴を延々聞かされるし」
そう説明されて、なんとなくだけど思い出してきた。
確かに私は昨晩、良い具合に酔ってマスターに愚痴を聴いてもらっていて……そこでたまたま近くに座っていた初対面の男性を巻き込んだようなーーー
「そんな事あった気がする……」
「やっと思い出したか」
必死に力を入れてドアノブから手を離すと、男性も足を抜き閉まらないよう、手だけで押さえたまま続ける。
「外の空気を吸いに行くとか言って、出て行ったきり戻って来ないからマスターが心配してた。それで見に行けば、道端で寝てるし」
そ、そうなの……?