「うーん……ダメだ、全っ然思い出せない」
ベッドの上で正座して何度も唸りながら考えてみても、まったく記憶を呼び起こせない。失恋どころか飲んだあとの出来事まで忘れるなんて、この歳にもなって大失態……。
いけない、後悔ばかりしている場合でもない。
ひとまずここがどこなのかを知らないと始まらないと思い、私は二日酔いが残る気怠い体で のっそりとベッドから降りて立ち上がってみた。
「うわ、スカート皺だらけになってる……」
着崩れたスーツは、見ると前も後ろも線が無数に入っていてこれはすぐにクリーニングに出したい。上はブラウスだけでブレザーは着ていないし、どこ置いたんだろう。それに今は何時だろ? 時計は・・・
「あ! そうだ、鞄っ!」
1番最初に思い出さなきゃいけなかったのに、現状の把握に必死になりすぎて忘れていた私の鞄の行方。何よりも財布やスマホは大丈夫!?
焦りと不安から一気に酔いも冷め、私は部屋の中を探し回った。途中、化粧が落ちかけて黒く汚くなった自分の顔が鏡に映って、『妖怪!?』とか驚きながら―――
「良かった……無事だった」
鞄はデスクとセットになっている椅子の上に置いてあり、中身も全部きちんと入っているし財布には現金もクレジットカードも盗まれた様子がない。
それが確認出来ただけで、私はホッと胸を撫で下ろした。