「え、えぇ……煙が少し……」
どうして急にそんな質問? と、不思議に思いながら曖昧に答える私の反応に、マスターは顎に手を当ててまるで謎解きでもしているかのように何やら考えている仕草を見せた後、『なるほど、だからですね』と今度は納得した様子で自己解決を図った。
「煙草と何か関係があるんです?」
「たぶん先程の男性は、棗さまに気を遣われて外へ煙草を吸いに出て行かれたのではないかと」
「そんな事って……」
正直あるはずがないと思っている。さっき確かに睨まれたし、仮にマスター言う通りだったとしても『仕方なく出て行った』という意味合いだって、なくはないから。
「あの方、一見怖そうですが全然そんな事なくて、とても優しい方ですよ」
マスターの穏やかで優しい笑顔には、その言葉に嘘偽りはないように思える。だけど“見た目は怖い”って言っちゃってるからね。フォローになってない。
「まぁいいや。マスター、他も飲みたい」
「え、ですがもう結構飲まれているのでは……」
「今日はいいの。失恋記念だから」
こんな記念日はもう懲り懲りだけど、今日だけ特別。自分に甘く。お酒の力で忘れられるように今だけ……
それから私は時間も忘れ、カクテル以外にもいつも飲んでるアルコールを次々と体内に入れていく―――