器用な手つきで流れるように次々とシェイカーに材料を入れ、素早く振る姿は格好良くさえ見えてしまう。
 氷の当たる音が相変わらず心地良くて聞き入っていると、少ししてグラスに注がれたカクテルをスッと私の前に差し出してくれた。

「こちらは”チェリーブロッサム”と言う名でございます」
「桜……?」
「はい。チェリーのブランデーとレモンジュース、あとはオレンジとシロップも少々入った一杯です。甘いのでお口に合うかと」

 赤ワインのような色合いのカクテルは綺麗で目を引き、私の好きな桜の花の名前がついているなんて、なんともセンスがいい。それだけで感情的になっていた心が穏やかになるんだから、マスターはさすがだな。

「甘くて美味しい……」
「それは良かったです。カクテルって、花言葉のように実はそれぞれに意味があるんですよ」
「意味?」
「はい。そしてこのチェリーブロッサムには”印象的な出逢い”という意味合いがあります」

 印象的な出逢い……

 なぜマスターがそんな意味を持つカクテルを私に出したのか、その理由はまったくわからない。けれどきっと、私が次の恋に進むための応援の意味を込めてくれたのかもしれない。と思う事にした。

 甘い味に舌鼓を打ちながら他のカクテルの言葉の意味を教えてもらい、オススメしてくれるお酒に、量が増えていく。