いつものようにカウンターの真ん中、マスターの正面に腰掛ける。今日は他にお客さんはいないみたい。貸し切り気分でちょっとだけ嬉しい。

「はぁ……」

 なのに、また溜め息が出てしまう。ここに来ると、いつも考える。
 凪と来てみたかったな……って。まだそんな事を思うくらい私は彼の事を忘れられなくて、自分自身が情けなくて苦しい。特に今日は、あんな2人を見せられたから余計に――――

「大丈夫ですか?」
「へ?」

 席についた私の顔を見るなり、マスターはグラスを拭いていた手を止め心配そうな表情で声を掛けてくれた。私、大丈夫じゃなく見えるんだろうか。

「変? 今日の私」
「いえ……ですが、元気がないように見えます。何かありましたか?」

 まるで心の中を見透かされているような優しい声に、思わず言葉が詰まる。BARのマスターをしていると、客の顔色なんかでその人の心情を見破ってしまうのかな。
 そして今の私は、そういうのに弱いのかもしれない。

「ちょっとね……仕事は順調なんだけど、プライベートが最悪。今日なんてせっかく気分良く帰れると思ったのに――」

 つい、そう言い出してから話始めた自分の事。昨日彼氏にフラれてから、さっき見た光景まで。少しずつ感情が入り止まらなりそうなくらいに……
 するとマスターは『では貴女にはこちらを』と一言呟き、カクテルを作り始めた。