なんかむしろ、聞こえていてもいいんじゃない?私が見てた、なんて知ったら向こう、どんな顔するかな。

「はぁー……」

 結婚式後の祝福する幸福(しあわせ)の気持ちから一転、フッた元カレのラブラブ現場を見てしまったが為にテンションがドン底に付き合おとされた私は、2人が出ていった後しばらくしてから重めの溜め息を吐きつつ退勤を押して外に出た。

 気分転換に飲みにでも行こうかな。ちょうど明日は休みだし。


 職場と自宅とのちょうど中間の、大通りから外れた路地裏を入った所に、ひっそりと佇むオーセンティックバー。店自体はそれほど大きくなく看板もないから、目立つ訳でもない。その店は、まさに隠れ家。
 つい最近、偶然ここを知ってから数回ほど1人で訪れている私の憩いの場だ。

「こんばんはぁ」

 そっと扉を開けると、カラカラ〜と入店を合図するドアベルの音が耳に入る。

 良かった、営業しているみたい。

 いつも静かに穏やかなこのBARは、クラシックが流れていて大人の雰囲気を醸し出している。

「いらっしゃいませ」

 BARカウンターでグラスを拭きながらニコっと私に爽やかな笑顔を向けてくれたのが、この店のマスター。髭もなければ黒髪で体型は細めの色白。若い見た目から年齢がわかりづらいけれど、聞くと41歳らしい。
 こういう仕事をしていると、若くいられるのかな――――