菖は毛布から出ると再び冷気が入り込む。さっきまでの温かさは心のどこかで求めていたもの。橙花は離れがたくて菖の着物の袖を掴んだ。


「あっ…」

「橙花?」


忙しい菖の貴重な時間を奪いたくない。そんなの分かっているはずなのに、溢れんばかりの感情が止められなくなっていた。


「ここに居てください」

「だが、それでは橙花が休むことができない。あまり眠れていないのだろう?」


菖は橙花の体調の変化に気づいていた。いつもなら引き下がるだろうけど、不思議と菖を求めている。傍にいて。

(ようやく顔を合わせることができたのに…このまま一人になるのはイヤ)


「傍にいてください。私のわがまま、聞いてください」

「また、後悔することになってもか?」

「後悔なんてしません。私は、菖さんに傍にいてほしい」


自分が何を言っているのか。それは後できっと後悔するだろう。


「その言葉、忘れるな?」


言葉の後悔よりも菖さんとの時間を過ごせない方がよっぽど後悔する。


隣に座った菖は橙花を再び抱き寄せる。さっき打った頭を優しくさすり「まだ痛むか?」と聞いてきた。橙花は「もう平気です」と答えた。


安心しきった橙花は菖の腕の中で再び目を閉じ、心地よい夢の中へと誘うのだった。


「困ったな、どうも気が緩んでしまう。…胸をざわつかせるこの感覚を人間は何と呼ぶ?いつか教えてくれ。それまで、おやすみ橙花」