『こわい』


キツネは震えていた。背中をゆっくり撫でても震えは止まらない。


私には想像も出来ないほどの恐怖に見舞われてきたのだろうか。

黒いあやかしはこの世界にとって災いそのもの。大昔、光と闇が戦いを繰り広げていたあの日から。

けどこの子は違う。誰かを守ろうとする意思がある。今の時代のあやかしは自分の身を守ることが精一杯だ。

そんな中でこの子は私を守ろうとしてくれた。自分が傷ついているにも関わらず。ちょっと強引にも思えたけど、私には伝わったよ。あなたの優しさ。

私があなたの悲しみを受け止める。だから、笑って?今度は私が守りたい。


すると次第にキツネの震えは収まっていった。落ち着きを取り戻し、スースーと寝息を立てて穏やかに眠る。


『おやすみ』


ーー襖からの冷たい隙間風が吹く。ひんやりとした空気に身を縮こませて暖を逃すまいとした。

すると膝元に和らい布があるのに気づく。ゆっくり目を開けると目と鼻の先に菖さんの顔があった。


「すまない。起こしたか」

「えっ!?あ、菖さん!?」


驚いて離れると柱に頭をぶつけれしまい、ゴン!っという音をたてる。


「いったー……」


ぶつけた部分はなかなか痛く、ジンジンと脈を打つ。


「平気か?驚かしてすまない。眠っていたから毛布をかけようとしたんだが…」