菖さんは短くため息をついて、小さく頷く。


「今回は大あやかしに免じて許そう。だが橙花、これだけは忘れるな。おのれの命、簡単に手放していいほど、軽いものでないという事を」

「はい。肝に免じます」

「分かればよい。大あやかし、お前の傷を治そう。こちらへ」

「すまない」


そういえば黒いあやかしは?あとキツネも。どこに…あっ!


黒いあやかしは私たちから離れている所にいた。足元がおぼつかない様子で、よろけながら歩いていく。私はそれを追って、引き止めようとした。


「待って!」

「オレに関わるな」

「どうして?」

「“黒いあやかし”は不吉な存在だ。近くに居れば、災いが起こる」


立っているのもやっとなんだろう。どんどん声に力が無くなっていき、今にも倒れそうだ。大あやかしに付けられた傷からさ大量に出血している。

早く手当てしないと命が危ない…!


「不吉なんかじゃない!」

「は?何を言って……」

「あなたは私を助けてくれた。そんな人が不吉だなんて私は思わない。あやかしの間ではそうかもしれない。けど、私はあなたの優しさを信じる」

「信じる?人間があやかしを?はっ、笑わせるな。お前は知らないだけだ。あやかしの本当の恐ろしさを」

「あやかしも人間も同じだよ。同じ命で、今もこうして生きている。助けたいって思うのも、信じたいって思うのも、同じだってここに来て、短い間だけど知ることができた」