「君、名はなんと言う?」

「橙花です。笠井 橙花(かさい とうか)

「橙花。良い名だ。では橙花、これから屋敷へ向かう。俺から離れないようにな。それと、決して振り返るな」

「は、はい」


ついて行っていいのか、危険はないのか、この人を本当に信じていいのか。

ここに来て、まだ僅かな時間しか経っていない。そのせいか物事に対して疑心暗鬼になってきている。

見知らぬ世界で人間が一人もいなくて、いるのはあやかしと呼ばれる妖怪。

未知の存在を簡単に信じて、私は無事に元の世界に帰れるのか不安でいっぱいだった。


「ぎゃーーっ!!!」

「な、何!?」


突如背後から悲鳴が聞こえてきた。振り返ろうすると目を彼の手によって覆い隠されてしまう。


「言っただろ?振り返るなと」

「で、でも…!」


あの悲鳴はさっき私を襲ってきたあやかしのもの。とても痛々しい声を聞いて振り返らずにいられなくなる。


「何が起きているんですか?あのあやかしたちに何を……」

「心配するな。少々イタズラが過ぎるので、罰を与えているところだ」