青年が一歩前に出ると化け物は一歩後ろに下がる。どうやら化け物が怯えている菖というのは、この青年の方らしい。

そして橙花も化け物たちと同じように感じていた。明らかに力の差が違うこと、本能が危険信号を送っていることを。

「君は人間か?」

菖は橙花の目線に合わせるかのようにしゃがみ、声をかけた。その瞬間、花の香りがフワッと漂い橙花の鼻をなぞる。

「ここに居ては危険だ。速やかに離れるんだ」

「あなたは一体…」

「俺は北条家の次期当主、北条 菖(ほうじょう あやめ)。いずれこのあやかしの世界を背負う者だ」

「あやかし…?」

(それって絵本とかに出てくるあの?)


「話は屋敷に戻ってからしよう。今は君の安全が第一だ。下級のあやかしたちは人間を襲う。瑞紀(みずき)

「はっ」

「あと始末を頼む。俺はこの娘を連れて屋敷へ戻る」

「かしこまりました。お気をつけてお戻りください」