ここに来て数日。あやかしの世界にもすっかり慣れてきた。

朝食を終えて、部屋に戻ろうとすると菖さんに声をかけられ引き止められる。


「橙花、今日は街へ行く。一緒に着いてきてほしい」

「街、ですか…」

「どうした?何か用事でもあるのか?」

「いえ、ただ人間の私が外へ出て大丈夫かなと」


この世界にはあやかししかいない。稀に人間が迷い込むことがあるけど、あまり歓迎されないだろう。むしろ追い返したくなるような存在だ。


「俺がいるから問題はない。何かあれば全力で君を護る」


護る。それはあやかし同士で傷つけあうことを示す。かつて人間とあやかしは固い絆で結ばれていた。

しかし、闇のあやかしと光のあやかしが世界を分けたことにより、徐々に薄れていった。あやかしの中には人間を恨んでいる者が多い。

交流を絶たれ、あやかしの仲間たちは悲しみに満ちて天へと旅立つものが多くなった。

本来、あやかしは人間よりも長命で多少の断食も耐えられる。

簡単に命が天へと旅立つということはない。これは精神的な問題。あやかしは人間とずっと生活を共にしていきたかった。

絶たれた交流はいつしかあやかしにとって、大きなストレスとなり、精神的に弱って食が細くなり、異能が使えなくなったことが原因のひとつだと北条家当主である、璃央様が仰っていた。