「迷惑など思っていない」


ふわりと頭に菖さんの手が置かれた。押しつぶされそうな私をなだめるかのように優しく撫でる。まるで、母が子をなだめるかのように。

不思議と心が軽くなっていく。


「橙花、君は優しい人間だ。俺たちのことを思って流してくれたその涙、とても嬉しい。そんな君だからこそ、俺たちは力を尽くしたいんだ。あの下級の妖を救ってくれた、せめてもの礼だ」

「お礼なんてそんな…！大したことはしていません」

「いや、あれは簡単に出来ることではない。ここではあれが当たり前だった。何度もその光景を見てきて、胸を痛めたことか。変えたくても俺には権限がない。しかし、きっかけがあった」

「きっかけ…？」

「それは君が教えてくれたんだ。あやかしを同じ生き物として見てくれた君の優しさは、これまで動こうとしなかった時の針を動かそうとしている。誰も進もうとしなかった未来へ。俺は変えたい。あやかしと人間が共に手を取り合っていく世界にしたい。俺が長い間、見続けてきた夢だ」


あやかしと人間が手を取り合っていく世界。私はまだあやかしがどんなものか全く知らない。

だけど菖さんは妖と人間の共存を夢見ている。彼の目はまっすぐだった。本気でそれを望んでいる。

その理由は分からないけど、彼にとって共存というのはとても重要なことなんだ。