ここに入った時から菖さんはとても静かだった。ずっと目を逸らしたまま、こちらを見ようとしない。瑞紀さんが菖さんの肩に触れるとはっと我に返る。


「すまない。うん、着物似合っている」

「ありがとうございます」


すぐに目を逸らされた。本当は似合ってなかったのかな?着物なんて七五三の時にしか着たことなかったし。

着付けはお手伝いさんたちに手伝ってもらったから変なところはないと思うけど。


「瑞紀」

「はっ」

「当主は明日戻る。彼女については当主がお戻りになった際、話すとしよう」

「分かりました。俺はこれからあの場所に戻って手がかりを探します」

「任せたぞ瑞紀」

「はい、菖様」


瑞紀さんはどこかへ行ってしまい、私と菖さんの2人だけとなる。


「あ、あの菖様」

「様はいらない。菖で良い」

「菖さん」

「それで良い。して、どうした?何か聞きたいことがあったのだろう?」

「はい。この世界のことや私がここいる理由についてです」


全てが分からなくても、これだけはハッキリさせたい。私がここに来た理由、そして帰れるのか否か。


「君がここに来た理由は現在、瑞紀率いる北条(ほうじょう)家のものたちに探ってもらっている。そしてここはあやかしたちが住む世界。君が住む人間の世界とは異なる場所にある」