よく見れば所々傷んでいる。


部屋に用意されていたのは桃色の着物。七五三以来着ていないから着替えに手間取ってしまった。廊下を歩いていたお手伝いさんにこっそり頼んでなんとか着ることができた。

着物よりワントーン濃い色の帯には、龍らしき飾りがある。なんとなく、水龍神社の龍神様に似ている気がした。

私がここに来たのは水龍神社にお参りをした、その帰り。目が眩むような光が視界を遮ったと思ったら、気づけばこの、あやかしの世界にいた。

そしてあの“声”。聞き覚えがあるような。どこか懐かしいような…。

考えていてもすぐには答えと言えるものは出てこなかった。

菖さんから着替えたら隣の部屋に来るように言われていたので、すぐに向かった。


「し、失礼します。橙花です」


ゆっくりと襖を開けて様子を伺いながら入る。中には菖さんと瑞紀さんが何やら話していたみたいだが、私が来たのに気づいて中断する。


「橙花、ここにかけるといい」


言われた通り、菖さんの隣に正座で座る。慣れない服装に、普段からあまりしない正座をして、少し緊張してきた。


「あの……」

「どうした?そんなに固くなるな。肩の力を抜いて、ゆっくり話すといい」


優しい口調で緊張をなだめてくれた。ふんわりと笑う彼に思わずドキッする。