彼女と出会ってからは、毎日河川敷で待ち合わせをするのが日課になった。幽霊であることを忘れそうになる日常を送りながら、なぜ彼女が大人の姿で現れたのか時折考えてしまう。成仏が出来てないのか、とも考えたが彼女曰くそんな事はないらしい。
しっかり天国にいたなんて言葉はあまりにもしっくり来ないが、あまり深く考える事はしなくなった。
今日は図書館で過ごしたいという彼女のお願いによって、久しぶりに図書館へ行った。この時期にとっては冷房もよく効いて、静かで学生にはありがたい場所。受験を控えた若い学生達が、真剣に目の前の課題に取り組んでいる。
懐かしく感じる。少し前までは僕も同じようにしていたからだ。色んな本に目移りしている彼女を待っていると、小さな声で僕に話しかけてきた。
「そういえばさ、優太は今何してるの?」
「医学生だよ。まぁ、休学してるけど」
「ふーん…なんで?」
「なんでって、色々あるんだって」
あまり深掘りしてほしくない話に少し素っ気なく返してしまった。彼女は気にする様子もないまま、言葉を続ける。
「違うよ、そっちじゃなくて。なんで医者になりたかったの?」
「あ、そっちか…。なんで…って…」
そうだ僕はなんで医者を目指していたんだろう。中学生あたりからは医者を目指すと言えば周りが騒ぎ立てた。周りのテンションに釣られて鼻が高くなって、医者を目指しているというだけで、偉くなった気でいた。
高校生でもそれは変わらずで、頭がそこそこ良くて医者を目指しているなんて言えば女の子達が寄ってきた。そんな自分に酔っていた結果が、今になるんだ。
僕はなんで医者になりたかったんだろう。
「医者ってなんとなくでなれるものじゃないでしょ?」
彼女の言葉はやけに僕の心を抉っていく。
「…そんなの分かってるよ!」
静かな図書館の中で響く自分の声に彼女も、図書館に来てる人達も驚いた様子で視線が集まった。いたたまれない空気に僕はそのまま図書館を出た。
家に帰宅しようと自転車を漕いでいると、劣等感に苛まれそれが徐々にイライラへと変わっていき、周りが見えなくなった僕は大きなクラクションと共に地面へと転んだ。生憎、怪我は擦りむいただけで済んだ。車に乗っていたおじさんからは危ないだろうと酷く怒鳴られた。散々な一日だと、今度は落ち込みながら自転車を押して帰る。
さっきの光景が頭に浮かぶと、久しぶりに通る道に足を止めた。
そこは彼女が、涼花が事故にあった場所だった。
なんとなく今まで避けてきた道だった。悲しい記憶を思い出させないように、ただなんとなく気が乗らなくなって避けていた事故現場。
「優太?」
後ろを振り返ると涼花が立っていた。
「なんで…」
「なんでって、優太が急にどこかに行っちゃうから探しに来たんだよ!…なんか気に触るようなこと言っちゃったよね、ごめんね」
「…僕こそごめん。」
「どこ探しても見つからなくて焦っちゃった。でも良かった、見つかって!」
彼女は気付いていないんだろうか。ここが事故にあった場所だということに。そんな心配をよそに僕がさっき擦りむいた怪我に心配をされながら、今日は帰ろうということになった。
しっかり天国にいたなんて言葉はあまりにもしっくり来ないが、あまり深く考える事はしなくなった。
今日は図書館で過ごしたいという彼女のお願いによって、久しぶりに図書館へ行った。この時期にとっては冷房もよく効いて、静かで学生にはありがたい場所。受験を控えた若い学生達が、真剣に目の前の課題に取り組んでいる。
懐かしく感じる。少し前までは僕も同じようにしていたからだ。色んな本に目移りしている彼女を待っていると、小さな声で僕に話しかけてきた。
「そういえばさ、優太は今何してるの?」
「医学生だよ。まぁ、休学してるけど」
「ふーん…なんで?」
「なんでって、色々あるんだって」
あまり深掘りしてほしくない話に少し素っ気なく返してしまった。彼女は気にする様子もないまま、言葉を続ける。
「違うよ、そっちじゃなくて。なんで医者になりたかったの?」
「あ、そっちか…。なんで…って…」
そうだ僕はなんで医者を目指していたんだろう。中学生あたりからは医者を目指すと言えば周りが騒ぎ立てた。周りのテンションに釣られて鼻が高くなって、医者を目指しているというだけで、偉くなった気でいた。
高校生でもそれは変わらずで、頭がそこそこ良くて医者を目指しているなんて言えば女の子達が寄ってきた。そんな自分に酔っていた結果が、今になるんだ。
僕はなんで医者になりたかったんだろう。
「医者ってなんとなくでなれるものじゃないでしょ?」
彼女の言葉はやけに僕の心を抉っていく。
「…そんなの分かってるよ!」
静かな図書館の中で響く自分の声に彼女も、図書館に来てる人達も驚いた様子で視線が集まった。いたたまれない空気に僕はそのまま図書館を出た。
家に帰宅しようと自転車を漕いでいると、劣等感に苛まれそれが徐々にイライラへと変わっていき、周りが見えなくなった僕は大きなクラクションと共に地面へと転んだ。生憎、怪我は擦りむいただけで済んだ。車に乗っていたおじさんからは危ないだろうと酷く怒鳴られた。散々な一日だと、今度は落ち込みながら自転車を押して帰る。
さっきの光景が頭に浮かぶと、久しぶりに通る道に足を止めた。
そこは彼女が、涼花が事故にあった場所だった。
なんとなく今まで避けてきた道だった。悲しい記憶を思い出させないように、ただなんとなく気が乗らなくなって避けていた事故現場。
「優太?」
後ろを振り返ると涼花が立っていた。
「なんで…」
「なんでって、優太が急にどこかに行っちゃうから探しに来たんだよ!…なんか気に触るようなこと言っちゃったよね、ごめんね」
「…僕こそごめん。」
「どこ探しても見つからなくて焦っちゃった。でも良かった、見つかって!」
彼女は気付いていないんだろうか。ここが事故にあった場所だということに。そんな心配をよそに僕がさっき擦りむいた怪我に心配をされながら、今日は帰ろうということになった。