待ち合わせの時間に合わせて、河川敷へと向かう。地元のお祭りに男が浴衣を着る勇気はなかった。そもそも持ってもない。

「優太、こっちこっち!」

明るい声で僕に向けて手招きしているのは、涼花だ。てっきり浴衣で来るものだと思い込んでいたが、さっき会った時と服装は変わっていなかった。

涼花は察したように自分は幽霊だからと内緒話をする声のトーンで僕に伝えた。

薄暗くなってくるに連れて神社への道に人も増え始める。

「優太、手繋いでいい?」

「え!?」

「なんでそんなに驚くの?昔はよく手繋いで歩いてたじゃん!」

「いや、それ何歳…」

「何歳だろうが関係ないよ!ね、お願い!」

照れ臭くも感じてなさそうな様子を見ては、渋々手を差し出すと嬉しそうに手を握る彼女の姿に自分だけが心臓を高鳴らせていたのだろう。

神社に着くと、小さい祭りながらに出店も並んでいてとても賑わっていた。定番な唐揚げやりんご飴、多種類のキャラクターが描かれた綿飴の袋。そんな風景を見て彼女はどんなに小さい子よりも目を輝かせて、はしゃいでいた。

僕の手を引き、これでもかと言うくらい食べ物を食べ尽くしては、当たるのか怪しいクジ引きをやっては悔しがって、スーパーボールすくいをやっては色鮮やかな球体を大事そうに手で持っていた。

小さな神社のお祭りを堪能しきった後は、おもむろに彼女の小さなカバンから出てきた数本の線香花火をやろうと、唐突に言い出す。

薄暗い河川敷で、小さくしゃがみ込んでは二人で線香花火に火をつける。

「線香花火って願い事を頭に思い浮かべながらやるんだって。それで最後まで落とさず出来ると願いが叶うらしいよ」

そんな風に少し切なく彼女は呟いた。

「女の子ってみんなそういう話好きだよね」

「好きな人も多いだろうけど、今は少し違うかな」

「どう違うの?」

「今はそんなジンクスみたいな話でも、縋っていたい願いがあるんだよ」

「…どんな願い?」

「ひと夏で終わらせてほしくない、かな」

その言葉の意味を僕は理解できないまま、線香花火に灯された彼女の表情を見た。

そんなに切ない表情をしながら、彼女は何を願ったのだろう。

今日は目まぐるしい一日だった。