「優太、久しぶり!」

中村優太(なかむらゆうた)

涼花ちゃんの面影があるその女性は、僕の名前を口にした。

「え、なんで…僕の名前を」

「もう、やっと見つけた!ずっと待ってたのに来ないんだもん、諦めかけてたよ。元気だった?」

自分の疑問は彼女の声でかき消されてしまった。ずっと待ってた、そんな言葉に後退りする。まだお盆の時期じゃない、僕をあの世に連れて行こうとするにはまだ早いぞ、なんて意味のない自問自答を繰り返した。

繰り返してるうちに、目の前にいる人は幼い涼花ちゃんではなくて大人な女性な事に余計に混乱を招く。

「どこかでお会いしましたっけ…?」

恐る恐る聞くと彼女は不思議そうに首を傾げる。

「何言ってるの?私だよ、よくここで一緒に遊んだ涼花だよ!」

そう言われ腕を掴まれると、どんどん冷や汗が出てきた。

「いやいやいや、待って、涼花ってあの涼花ちゃん?事故で亡くなったよね?待って、本当に、僕まだあの世に行きたくないんですけど!!」

「ちょっと!!私を幽霊扱いしないでよ!幽霊だけど!」

「幽霊じゃん!僕霊感なんてないのに!怖い怖い!」

「怖くないってば!!」

そんなやり取りを繰り返しては30分程時間が経っていた。さすがに時間が経つと人間は落ち着くもので、所々焦る僕に説明をしていた内容を整理する。

彼女が言うには、七夕の日にあの世でお願い事をしていたらこの河川敷に大人の姿でなぜか現れてしまった。それからは親に会いに行こうと家に行ったが、誰もいなくどうすることも出来ないまま、僕が来ないかずっと河川敷で待っていたらしい。

それはそのはずだ。涼花の両親は、思い出があるこの場所が辛いと引越しをしてしまっているのだ。そんな話を聞いても彼女はそっか、としか言わなかった。

「僕が来なかったらどうするつもりだったの?」

「うーん、分からない。でも来る気がしたんだよね。」

なにも根拠もない話を信じるしかない僕も、なにも根拠のない自信を持つ彼女もお互い様と言ったところか。実際彼女は僕の腕を掴むことも出来るし、話も出来る。隣に座られている感覚もある。幽霊な事が信じられないくらい、ただ隣にいる彼女は人間そのものだ。