幼い頃、よく立ち寄った場所がある。母親同士が仲が良く見晴らしがいい河川敷。よく母達は河川敷の日陰で話をしては、僕は幼馴染の女の子と遊んだ記憶がふとよぎる。自然と懐かしい場所へと足を運んで、日陰の場所へと座り込んだ。

辺りを見渡すとこんな暑い日だというのに、日差しを気持ちよく浴びながら佇む女性が立っていた。どこか懐かしい、そんな面影を見つめていると彼女が僕の方へと視線を向ける。

「こんにちは」

そんな優しい声に僕は戸惑いながら、会釈をする。視線が交わった瞬間、自然と名前が口から溢れた。

「涼花(すずか)…？」

他人の空似、にしてはよく似てる。つい口にしてしまった名前に彼女は優しい笑顔を僕に向けた。

櫻井涼花(さくらいすずか)

この河川敷でよく遊んでいた女の子の名前だ。

当時は涼花ちゃんなんて可愛い名前で呼んでいたのを思い出す。明るくて外で遊ぶのが大好きな活発な女の子だった。そんな仲の良かった涼花ちゃんは6歳の頃、不慮の事故で亡くなってしまった。

幼きながらにも涼花ちゃんの身に何が起きたのかは理解していた。理解はしていたが、気持ちが追いつけずただもう会えない悲しさと寂しさだけが残った。泣く事も出来ずに、母親の泣く姿と涼花ちゃんのお母さんが酷く悲しんでいる姿は今でも覚えている。

この世にはもういない人なのに、なぜか涼花ちゃんの名前を声に出してしまった自分に驚いた。一番不思議なのは、目の前に立っている彼女が驚きもせず嬉しさを隠し切れない笑顔を僕に向けていることだ。