次の日、とりあえず僕は出勤したが、落ち着かない。美幸の会社へ電話して出勤しているか確認した。今日から夏休みをとっているとのことだった。そうなら一言連絡があってもよさそうなのにと思った。ひょっとして、実家へ帰っている? そう思って父さんに電話した。

「父さん、美幸が帰ってない?」

「ああ、昨晩、遅くなって突然帰ってきた。美幸は夏休みだと言っていたが、どうも元気がなくて」

「帰っていたのなら安心した。何も言わないで突然いなくなって心配していたので」

「理由を聞いても何も言わないので。誠と何かあったのか?」

「まあ、ちょっとね。僕も今日の午後から休みを取ってすぐに帰省するから、母さんと美幸にもそう伝えておいてください」

◆ ◆ ◆
僕は新幹線の中でもずっと考えていた。どうして美幸の時はあんなふうになってしまったのだろう。そしてその原因が二人の小さいころにあるのではないかと思うようになった。それなら思い当たることがある。解決策が見えてきた。

午後6時までには実家に着いた。1年と3か月ぶりの帰省になった。玄関を入ると母さんが迎えてくれた。

「美幸のことで心配かけてごめんなさいね」

「こちらこそ、ご心配をかけました」

リビングに入ると父さんと美幸がソファーに座っていた。それで母さんと3人でソファーに座ってもらった。

「父さん、母さん、美幸とのことは距離を置いて考えたいと言って、僕は東京へ就職することにしました。美幸が僕のところへ来て一緒に生活するようになって、僕は美幸を一人の女性として好きだということが分かりました。美幸も僕を一人の男性として好きになってくれました。それで父さんと母さんにお願いがあります。二人が兄妹としてではなく、一人の男性と一人の女性として、結婚を前提にして付き合うことを許してください。そして母さんには、二人はもう大人になったので、子供のころに美幸とは絶対にしてはいけませんと言われた『パパママごっこ』をすることを許してもらいたいのです。どうかお願いします」

「父さんは二人が結婚を前提に付き合うのは賛成だ。できることならそうなってもらいたいとずっと思っていた」

「美幸はそれでいいんだね」

「はい」

「母さんは?」

「私は誠には美幸を守ってもらいたいと思っていました。結婚して守ってくれるのなら言うことはありません。それと二人はもう立派な大人になったのだから『パパママごっこ』をして愛を確かめ合ってほしいと思っています。誠、どうか美幸のことをお願いします」

「ママ、私もようやく分かった。お兄ちゃんはママに私との『パパママごっこ』を封印されていたのね。子供のころに美幸とは絶対してはいけませんと。私もそのことを覚えている。だから私を相手にするとだめになって、どうしてなのかと悩んでいました。これで封印が解けたので、きっと大丈夫だと思います」

「僕も母さんにそう言ってもらって何かが吹っ切れた気がしています」

「じゃあ、久しぶりに4人で夕食にしよう。母さんと美幸が張り切って作ってくれたからね」

楽しい夕食だった。4人で一緒に食べたのは僕が就職して上京する時だった。あれから1年以上が経っていた。母さんが後片付けをするのを美幸が手伝っていた。それが終わると母さんは僕の荷物を持って2階へ上がっていった。

父さんはコーヒーメーカーでコーヒーを入れている。父さんはコーヒーが好きでいつも食事後はコーヒーミルで挽いて入れて飲んでいて、僕たちも時々飲ませてもらっていた。

コーヒーでなければジョニ黒の水割りかロックを飲んでいた。大学生になってから時々せがんで飲ませてもらっていたので、ジョニ黒が好きになった。今では部屋に必ず1本置いている。僕のコーヒー好きとジョニ黒好きは父親譲りだ。

4人分のコーヒーが入った。母さんが2階から降りてきた。二人の浴衣を持ってきてくれた。

「2階の真ん中のお部屋に二人のお布団を敷いておいたから、それとこれはお父さんと私の浴衣だけど二人が寝るときに着て下さい。浴衣は前がすぐにはだけるから注意してね。それから、誠、美幸にはまだ赤ちゃんは早いから気をつけてあげね。枕もとに置いておいたから、ちゃんと使ってね」

父さんは聞こえなかったふりをしている。僕と美幸はお互いに顔を見合わせた。美幸はすぐに恥ずかしそうに下を向いた。僕はなんとなく緊張してきた。このままではまたEDになりかねない。それよりも美幸が緊張している。

父さんはあきれたように母さんを見ている。母さんは言い過ぎたかなと思っているみたい。4人はコーヒーを黙って飲んだ。お風呂が沸きましたとのアナウンスが聞こえた。

「誠がまず入ったら」

「美幸から入ったら」

「お兄ちゃんから先に入って」

それで僕は浴衣を持って浴室へ行って先に入った。久しぶりの我が家のお風呂はゆったりしていて疲れがとれるような気がした。両親に話して気が楽になったからかもしれない。美幸も母さんの封印が解けたと言っていた。そのせいかもしれない。

僕が浴衣を着て上がると美幸も浴衣を持って浴室に入った。リビングには父さんだけがいて、水割りを作って手渡してくれた。冷たくてとてもおいしい。

「誠、美幸のこと頼むな。お前たちはやはり赤い糸で繋がっていた。母さんと二人、こうなることを望んでいた。でもお前たちの負担になってはいけないと口には出さなかっただけだ。分かったと思うけど、母さんの喜びようはあのとおりだ」

父さんも喜んでくれていた。母さんは父さんが言うとおり、それ以上だったに違いない。これで封印は完全に解かれた。

お風呂から上がった美幸がリビングに入ってきた。頭にバスタオルを巻いている。赤い花模様の浴衣がとても似合っている。

「パパ、私にも水割りを作って」

父さんは水割りを作って手渡した。

「おいしい、緊張が解けてほっとするね」

「そうだね、パパも帰って来て一杯飲むと緊張が解けるから毎日飲んでいる」

そこへ母さんがやって来た。

「美幸が上がったから、お父さんと二人でお風呂に入るから誠たちはもう休んで」

そう言って、僕と美幸を促した。それで二人は手を繋いで2階へ上がった。真ん中の部屋は明かりが落としてあって、布団が2組敷かれていた。枕もとにはベッドサイドランプが灯っていた。

それを見て、いつもと違って美幸の方が緊張している。僕は美幸の手を引いて布団に座った。美幸を引き寄せるとようやく抱きついてきた。

美幸は下着をつけていなかった。浴衣はまえがはだけやすい。母さんが言ったとおりだった。僕は美幸のはだけた胸から愛し始める。僕はもうEDが回復している。それが嬉しかった。美幸にもそれが分かったと見えて僕の首に腕を回してきた。

それから二人は夢中だった。お互いが求めていた。二人が一つになったと思ったとき、美幸はひどく痛がった。それで母さんの準備してくれたものを使うまでもなかった。僕がほどほどで止めておいたからだ。

それでも美幸は僕がEDを脱したのが嬉しかったみたいだった。抱きついてそのまま眠ってしまった。

◆ ◆ ◆
翌朝、目が覚めたら、いつものように美幸はこちらを向いて僕に抱きついていて腕の中にいた。安らかな寝顔だった。いつものようにその寝顔を美幸が目を覚ますまで見ていた。

目を覚ました美幸は僕を眩しいように見てはにかんだ。それがとても可愛くて思わず抱き締めてしまった。ここが実家でなかったら僕はまた美幸を愛し始めていただろう。

「おはよう。大丈夫だった。起きようか?」

「痛かった。でもお兄ちゃんのEDが治ってよかった」

「原因が取り除かれたからもう大丈夫だ」

それから二人は自分の部屋で身づくろいをした。そして二人で手を繋いで降りて行った。リビングへ入っていくと両親が心配そうにじっと二人を見た。僕と美幸がニコニコしているのを見てようやく安心したようだった。

「母さん、ありがとう。美幸と仲直りできたから」

僕は照れていてそうとしか言えなかった。

「よかったわね、美幸」

「ええ」

美幸は顔を伏せて恥ずかしがった。朝食が準備されていて、4人で食べた。美幸と相談して、今日の午前中はそれぞれの部屋の片づけをすることにした。

僕は自分の部屋の片付けを終えると真ん中の部屋の様子を見に行った。起きてそのままにしてきたから綺麗にしようと思ったからだった。中はきれいになっていて布団も整えられていた。

そういえば母さんが2階へ上がって来ていた。母さんが掃除してくれたのだと思った。僕たちのことをそれほどまでに気にしてくれていたんだ。そこへ美幸がやってきた。

「この部屋を綺麗にしようと思ってきたけどもう綺麗になっている」

「ママがさっき来ていたから掃除してくれたみたい。私がしなければいけないのにちょっと恥ずかしい」

「母さんは僕たちのことがとっても気になるんだね」

「さっき、ちょっと話したけど、二人がこうなってよっぽど嬉しかったみたい」

「そうみたいだね。ところで母さんは?」

「買い物に行くと言って出かけた。それでお兄ちゃん、せっかく二人だけになったから、久しぶりに『パパママごっこ』してみない? もうママも許してくれたから」

美幸が僕に抱きついてくる。そして僕のズボンを脱がせにかかる。昔のことを思い出してきた。僕も美幸のスカートを脱がせにかかる。

その後はもう夢中になって愛し合う。美幸はまだ慣れていなくて痛がっていた。美幸が辛そうなのでほどほどにして、抱き合って眠った。

ドアの開く音で二人は跳び起きた。母さんが帰ってきた。もう母さんのことを気にしなくても良いのに、二人は顔を見合わせて笑ってしまった。そして寝乱れた布団をきちんと直した。

午後は二人で大学のキャンパスへ行って、それから公園を散歩することにした。久しぶりに二人で散策を楽しんだ。今までは兄妹だったけど、今は恋人同士になっている。でも美幸は相変わらず、僕のことをお兄ちゃんと呼んでいる。

その日は母さんが二人のためにお祝いの夕食を作ってくれた。僕の好きな牛肉のスタミナ焼や治部煮を作ってくれた。美幸の好きなグラタンと茶碗蒸しも作ってくれた。お昼にいなかったのは、買い出しに行っていたようだ。4人でお酒を飲みながら楽しく食べた。

その晩も二人は2階の部屋で愛し合った。美幸も徐々に慣れてきて、僕は最後までいくことができた。美幸もそれが分かって僕にしっかりと抱きついてきた。母さんが用意してくれたものがようやく役に立った。