朝、出かけるとき、美幸に飯塚さんと食事をすることになっていると話しておいた。美幸には隠し事をしたくなかったからだ。美幸は「分かった」とだけ言った。

マンションに帰ったのは10時少し前だった。まだ、部屋の明かりが点いていた。ドアを開けると美幸が跳んできた。やはり気にしていた。もうお風呂に入っていて、パジャマに着替えていた。

「おかえり」

「ソファーで話そうか」

美幸はソファーに座った。その横に僕が座った。

「飯塚さんと別れてきた」

「お兄ちゃんはそれで良いの?」

「良いも悪いも、彼女から別れようと切り出された。僕に半分、彼女に半分、それぞれ原因があると言って」

「半分のお兄ちゃんの原因って何?」

「僕の心の中に美幸がいるって言うんだ。美幸と鉢合わせしたときに自分にそっくりだと驚いたと言っていた。だから美幸に似ている自分に惹かれて付き合ったと思ったと言っていた。そう言われて否定できなかった。僕もあの時、彼女と美幸がそっくりなのに驚いたから」

「実は私も驚いたの、それで私もあのとき確信しました。お兄ちゃんの心の中には私がいると」

「美幸もそう思ったのか。それに僕が美幸の名前を寝言で言っていたそうだ。僕が妹の名前だと言っていたので安心していたけど、義理の妹だと紹介されて今までのことに納得したと言っていた。そして私は二人の間には入って行けないことがはっきりと分かったと」

「それでお兄ちゃんと別れようと言ったのね」

「僕は自分の気持ちがよく分かっていなくて申し訳なかったと彼女に謝った。でも彼女は自分にも半分の原因があると言って、僕のほかに好きな人がいると話してくれた。二人でいるところを美幸に見られて、美幸が彼女に会いに来て話したことも聞いた。どうして美幸はそのことを僕に話してくれなかったの?」

「お兄ちゃんと飯塚さんのことだから、何も言えないけど、それではお兄ちゃんが可哀そうだとだけ言いたかったから会いに行ったの」

「彼女は僕のことを好きだったから自分の方から誘惑したので後悔したり悔やんだりしないでほしいとも言っていた。それで僕も気持ちの整理がついたから別れることにした」

「それで良かったの?」

「今、冷静になって考えるといずれ二人は別れることになったと思う。心配をかけた上に、美幸を傷つけることになってすまなかった」

「いいえ、お兄ちゃんの心の中には私がいることが分かったので良かったと思っているから大丈夫」

「そう言ってもらうと気が楽になった」

僕は一人になりたくてお風呂に入った。 バスタブに浸かって今晩のことを思い出している。とても長い時間だった。でも僕のせいで瞳にも美幸にも辛い思いをさせてしまった。でも二人とも僕を非難せずに慰めてくれた。

瞳は僕が後悔しないような言い方をしてくれた。美幸も辛いことを前向きに受け入れてくれた。二人ともよい娘だ。容姿が似ていると優しい性格も似ているのだろうか? 二度と美幸に悲しい思いをさせてはいけないと思った。

お風呂から上がると美幸は冷たい水の入ったコップを手渡してくれた。そして「おやすみ」と言って寝室に入っていった。その後ろ姿が少し寂し気に見えたのは、僕の後悔がそう見させたのだと思う。