また、同じ夢を見た。
『──……キミの名前はなに?ぼくは爽夜』
 こんなことがあったのか。
 僕がそう尋ねると。
『……な、なの』
 あの子は少し目を泳がせながらそう言った。
『なの?よろしくね!』
 僕がそうやって握手をしようと手を差し出すと、なのは。
『……?よろしく』
 なのは僕の手を取ってくれた。
 そうだ。あの子の名前はなのだ。
 なぜ今まで思い出せなかったのだろうか。
 僕は不思議でたまらない。
 なのは積極的な子ではなかった。
 けれど、遊んでいるときはとても楽しそうだったのを覚えている。
『──……爽夜!次はここからあっちまで競争ね!』
 そのときは僕も楽しくて、ずっと忘れたくないと思っていた。
 けれど、名前も顔も思い出せないくらい忘れてしまった。
 いいや、忘れてしまいたかった。
 なのはある日を境に河川敷に来なくなってしまった。
 僕はそれがショックだった。
 別れの言葉一つなしにして、どこかに行ってしまったなのが憎らしかった。
 だから、楽しかった記憶も全て消したかった。
 幼い頃の傷というものは癒えるのが遅いのか、夢から覚めた今、胸がズキズキと痛む。
 昨日からあった違和感。
 『なの』という名前を思い出した今、少し気がかりなことがある。
 それは瑠璃川姉妹のことだ。
 凪乃さんが言っていたこと。
 川が好きだと言っていた。
 そして、『なの』も川が好きだと言っていた。
 こんな偶然があるのか。
 もしかしたら、あのとき遊んでいた『なの』は凪乃さんではないのか。
 けれど、きっと凪乃さんは僕のことを覚えていないのではないか。
 そう思うと切なさが溢れてきた。