僕、花野井(はなのい)爽夜は大学一年生。
 第一志望の大学に合格し、親元を離れて一人暮らしを始めた。
 大学生活にも慣れてきて、大学の図書館にいると。
「おい、爽夜。あの子たちレベル高くね?」
 高校から一緒の岩倉(いわくら)風斗(ふうと)
 風斗は気が合うのでよく一緒にいる。
「びっくりした。レベル高くねって言われてもな……」
 僕は風斗が言っていた人たちをちゃんと見る。
「いやぁ……目の保養。あのお方を可愛いとか綺麗とか思えない爽夜はセンスないわ」
「まだなにも言ってないだろ」
 風斗が見ていた人たちは二人組の女子だった。
 一人は小柄でおっとりした印象の胸下くらいまであるミルクティーベージュの髪をゆるく巻いている。
 もう一人もミルクティーベージュの髪を肩より下まで伸ばしていて、小柄な子のほうを世話している感じだ。
「あの二人は有名なの?」
 僕が聞くと風斗は頭を抱えた。
「お前……まさか知らないとは言わないよな。俺は悲しいぞ」
「いや、大学なんて中学高校とは違って人数めちゃくちゃいるだろ。全員覚えられるわけない。しかも大学入学して数か月しか経ってないし」
 そう言うと風斗は二人のことを熱弁してくれた。
「小柄でおっとりして可愛い方が瑠璃川(るりかわ)凪乃(なの)さん。それでもう一人が瑠璃川凪乃波(なのは)さん」
 風斗の話を聞く。
「え、瑠璃川って同じ名字?てことは……」
「そう。お二人は姉妹、凪乃さんが二年で凪乃波さんが俺たちと同い年」
「おっとりしてる方がお姉さん?」
 風斗は深く頷く。
「それが人気の秘訣!美人姉妹というのに加えて面倒見がいい妹、マイペースな姉!それがまた最高なんだよ」
「わかったけど、風斗の熱量で話されるのだけは勘弁……ちょっと引くわ」
「なんでだよ!」
 そんな感じで図書館からは出た。
 どれだけ人気なのかはわからないけれど、それだけ有名人なら関わることもないだろう。
 そう思い、家に帰る。
 

 今日は天気も最高だ。
 雲一つない快晴。
 最近、夢にもよく出てくるので河川敷に行く。
「──……」
 河川敷に着くと、先客がいたみたいだ。
 気にせずに進むとすごく視線を感じる。
「すみません~」
 パッと振り向くと小柄な女性が立っていた。
 この人は今日熱く語られた瑠璃川凪乃さんではないだろうか。
「ちょ、ちょっと凪乃ちゃん⁉」
 パタパタと走ってくる。
 こっちも熱く語られた瑠璃川凪乃波さん。
「なに~?凪乃波ちゃん?」
 平然とする凪乃さんに対して凪乃波さんは勢い良く頭を下げてくる。
「突然姉がすみません……」
「いえ、頭を上げてください」
 僕がそう言うと、凪乃波さんは顔を上げた。
 瑠璃川姉妹を改めて見る。
 双子コーデなのか二人とも白いフリルのワンピースを着ている。
「だって、今日すご~く熱い視線を感じたの。図書館でね?……そのときにいたのってあなただったから思わず話しかけちゃった」
 そう言われ恥ずかしさに陥る。
「ゆ、友人と話していたので……すみません」
 そう言うと、すかさず凪乃波さんが声を発する。
「本当に……凪乃ちゃん相手に対して失礼……っ!」 
 恥ずかしそうにする凪乃波さんに驚く凪乃さん。
「あ、あれ……ごめんなさい。……そうだ、キミ名前は?」
 凪乃さんは僕の瞳を見た。
「花野井爽夜です。名乗るのが遅くなってすみません」
 そう言うと、凪乃さんはニコっと笑って。
「爽夜くん?よろしくね~」
 そう言って凪乃さんは僕に手を振る。
 そしたらすぐに。
「あ、ごめん。電話だ。凪乃波ちゃんちょっと待っててね~」
 凪乃さんはパタパタとどこかに走って行ってしまった。
「……る、瑠璃川凪乃波です。ちゃんと名前言ってなかったですね」
 凪乃波さんは僕の方を見た。
「僕こそちゃんと自己紹介してなかったよ。じゃあ、改めて……花野井爽夜です。よろしくね」
 凪乃波さんは少し間をあけて。
「……図書館で、なぜ私たちのことを見てたんですか?単純に疑問に思っただけです」
 面倒見がよいとは聞いたけれど、真面目な性格なのか。
「いや……えっと、友達と瑠璃川姉妹、美人姉妹だよなって話しただけ……」
 本人に向かって言うの超恥ずかしいな。
「へ……?」
 凪乃波さんは予想外な反応をした。
 間抜けな声が聞こえたので凪乃波さんを見ると、顔はだんだんと赤くなっていった。
「そ、それはどうも……っ!」
 凪乃波さんはそっぽを向いてしまった。
「……そういえば、凪乃波さんは僕と同い年だよね?」
 少し気まずい雰囲気を変えたくて振った話題。
「……?はい、そうですけど」
「なら、敬語じゃなくていいよ」
 そう言うと、凪乃波さんも頷いた。
「そう。なら、花野井くんも凪乃波って呼んでいいから……」
 僕は頷いた。