「当たり前だよ。だって、私もやってる……家でね」


家で、と強調された事で、彼は自分のリサイクルや節約に対するストイックさを遠回しに突かれたような気がした。
それでも、彼女を振り返らずにはいられなかった。


「君から教わって、変わったんだよ」


この時、彼女は不思議な感覚だった。
全く話そうと近付かなかった彼に、自分の言葉を一生懸命伝えているのは何故なのだろう。


「俺、そんな目立ってんの……?」


彼は眉を寄せると、何だか自分が異常者のように見えているのかと違う方向に想像を膨らませてしまう。
自分の行動から誰かに影響を与えられるならば本望だ。
彼女は実際、影響を受けていると言う。
なのに素直に受け止められないのは、単にそう伝えられる事が初めてだから、という事だけではなさそうだ。


「目立ってるよ。わざとじゃないの?」


わざとでもある。
何かの時間で発表をした経験もあるが、そんなのはどこか説教臭くて、基本的には行動で示して伝えたいと思う派だ。
説教は、自分に対してだけでいい。
そう思って、将来に関係しそうな本ばかりを黙々と読んでいるのだと、彼は無言で視線を本に移した。



 その視線を捉えた彼女は、もしかしてとページを何となく覗く。
それを避けようと、彼は今度は先程よりも少し大きく背を向けた。
だが、その動きがデカデカと表紙を露わにしてしまった。


「……凄い。休みでも勉強してるんだ」

「え!? あっ!」


隙だらけな彼に、彼女はつい声を溢して笑ってしまう。
といっても、控え目で小さな笑い声だ。
そこが上品に思えて、彼は耳を澄ませてしまう。


「言うなよ」


いや、それもなんだかおかしな感覚だ。
自分がこんな風に勉強している事を、隠す必要が果たしてあるのだろうか。
人に伝えたいはずなのに。
日本全体で知名度をもっと上げる必要がある話題であるはずなのに。
その困惑を、彼女は見逃さなかった。


「言った方がいいんだよ、もっと……本当は……」


彼は、風に揺れる大人びた髪の奥に、彼女の俯いた横顔を見た。
先程までの笑顔が消え、寂しげな眼差しをするそこに何か暗いものを感じると、少し前のめりになる。
彼女は動揺しているのか、目が僅かに震えていた。
よく分からない事を分かるようにしようと、また、分かるように伝えようとしているのだろうか。


「黙って胸に仕舞っているものの方が、大事な事だったりするんだよ……本当に大事な事……」


我慢できればできる程、評価されたりする事がある。
主張した方がいいとされる事があっても、大抵はうんと言葉をこらえて耐え忍ぶ事。
それが大人だと言われたりするから、そう在れるように努力したりもする。